アクロバティック0.75

アクロバティック0.75 第99話(山勢修三→理由)

 理由さん、あなたはもういないんですね。
 探しても探してもどこにもいない。
 あなたの葬儀には行きません。
 あなたの死の現実には触れたくはないんです。
 ああ、なんて残酷な運命なんだ。

 必ずあなたを救ってみせる。

 そう、約束したのに―――
 約束したのに守れなかった。
 あなたの死は不審火が原因だと警察は結論づけたようです。
 でもそんなはずはない。
 あれほど火を恐れていたあなたが同じ過ちを繰り返すなんて考えられない!

 真相は山田裕司が握っている。
 やつこそがあなたを死に追いやった張本人。
 私はきっと彼を糾弾します。
 あなたを救えなかった私のせめてもの償いです。
 でも、このメールをあなたに送ることはないでしょう。いや、送れないのですね、もう―――

 現実を見なければ。
 今こそ現実を直視しなければ。
 私たちは仮想の世界に生きているのではないのだから。
 あなたが亡くなったのは純然たる事実なのだから。

 あなたからの最後のメール。

 助けてください、山勢さん!

 声のない悲痛な叫び。無機質なぶんだけ心に痛みを残しました。
 理由さん、いや、竜崎香苗さん、待っていてください。
 未来への希望でいっぱいのあなたを殺めた人間を必ず突き止めて、追いつめてみせます。
 そして、いつかきっと糾弾します。
 やつには必ず罪を償わせます。
 そのときは、そのときこそは本当にお別れです。
 あなたの存在はこの世から消えても、あなたからもらったメールは全て保存しています。
 だから、あなたはまだ私の中では生きている。
 
 いつの日か、あなたへの贖罪を完了した時、このメールはあなたと共有した時間とともに消去します。
 このパソコンからも、私の記憶からも―――

 私の背負った十字架は重いです。
 どんどん重くなっていきます。
 その重さに潰れてしまいそうです。
 でも、私はまだ死ねません。
 まだ死ねないんです。


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