声が聞こえる

声が聞こえる


「おはようございます、ご主人様」
 そんな聞きなれない声で俺は目覚めた。
 おかしい。
 部屋には誰もいないのに・・・
 ペットの犬、タロウだけが舌を出しながら俺を見ている。
「早く起きないと学校に遅れますよ」
 さっきと同じ男の声だ。
 いったい誰なんだ?
 窓を開けると、また別の話し声が聞こえてきた。
「今朝は寒いわねー」
「ホント、やンなっちゃうわねー」
 近くに人の気配はない。電線にスズメが2羽とまっているだけだ。
「最近空を飛ぶのも億劫で・・・」
「あらっ、それって年じゃない?空の飛べないスズメなんて洒落にもなんないわよ」
――――――ま、まさか!
 目をこする―――変わらない!
 頬をつねる―――痛い!!
 バック転を試みる―――できない!!!
 どうも夢ではないらしい。
 まいったな、こりゃ。
 俄かに信じがたいことだが、どうやら俺は動物の声を聞くことができるようになっちまったらしい。
 けど、よくよく考えてみると、ちっとも「まいったな、こりゃ」な話ではない。
 不可思議な現実を冷静に受け入れてみれば、この能力が備わったとて普段の生活に何ら支障はきたさないということが分かる。むしろ、動物たちの言葉が理解できるなんて嬉しい楽しい素晴らしーっ!てなもんではないか。
 いやはや、早起きは三文の得と昔の人は言ったものだが、遅起きも満更捨てたもんじゃないぜ、マジで。
 と、ちょっとご機嫌まっすぐな俺は、着替えをしながら学校へ行く支度をする。
 今の俺、スゴイぞ。学校行ったら自慢してやろう。いや待てよ、でも動物の言葉が理解できるなんて信じてもらえるわけないよな。第一、証明する手立てがないぢゃねーか。
 まっ、いっか。
 俺は、もともと物事を深く考えないタチなのだ。
 カバンを手にドアを開けると、階下からは朝食の匂いが漂ってくる。
 おふくろも俺と同じくネボスケなので今ごろ大急ぎで朝飯の準備をしているのだろう。
 その時だ。
「きゃ―――っ!やめてぇぇぇ―――!」
 空を切り裂く悲鳴が階下から響く。
「お、おふくろ!」
 こりゃあ、もうただならぬ事態だ。
 おふくろの身に何が?
 不安と恐慌で一気に階段を駆け下りる。
 そこで俺が見たものは・・・
「どうしたの、血相変えて」
 台所のおふくろが振り返る。
 いつもといたって変わらない。
「吃驚させんなよ、おふくろ。さっきの悲鳴は何なんだ?」
「ナニ言ってんの。あんた、まだ寝ぼけてるんじゃないの」
 そして俺は気がついた。
 まな板の上で、さばかれたばかりの魚の死骸に・・・
「もうすぐ、ご飯できるからねー」
 ああ、おふくろよ、そいつを俺に食らえというのか?
 う〜む、やはり遅起きは損かもしれん。


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