水の粒

水の粒


君の言葉に何度騙されたことだろう。
君の笑顔に何度騙されたことだろう。
それでも僕は君を信じつづける。
毎日君の端麗な笑顔を見るだけで、
毎日君の流麗な美声を聞くだけで、
それだけで僕は癒されるのだから。
君が気に病むことはない。君はなにひとつ悪くない。
だって僕に嘘をいっているのは君ばかりじゃないのだから。
ごめん。どだい騙すなんて云い草、失礼だったよね。
君は僕のことを騙すつもりなんてこれっぽっちもないのだから。
だけど君はいつだって曖昧な態度。
断定的なことはちっとも云わない。
なんでも決めつけて押しつけてくる無神経な人たちよりかはずっとマシだけど、
ときどき僕はそれを物足りなく感じることがある。
君はもっと自分に自信を持っていいと思うんだ。
こうなんだ、こうに違いないんだってもっとハッキリ云っていいと思う。
嗚呼――
君はそんな僕の愚痴ともつかない独りよがりを弁解も抗議もせずに聞いてくれる。
本当に自分が恥ずかしくなるよ。無神経に押しつけているのは僕の方だね。
そうやってみんな僕に愛想を尽かすんだ。
いいんだ。ふられるのには慣れている。
たとえみっともなくても構わない。
周りの人から奇異の目で見られても僕は全然気にしない。
それが君を信じた僕の結末なのだから。
心の準備はいつだってできている。
もちろん、ふられたときのために保険をかけておくことだってできたかもしれない。
実際、他の人ならそうするだろうしね。
でも僕はそんなことはしない。
僕は最後まで君の言葉を信じるよ。
つまりこれは押しつけなんかじゃなくて、ただ純粋に君を信じたいだけなんだ。
だから僕はみじめにふられたって悔やまない。
何度でも何度でも僕は君を信じつづけるから。


「あ、やっぱり……」
手のひらを前に突き出すとその上に水の粒が落ちてきた。
やがて街行く人々は次々と傘を開きはじめる。
だけど僕には傘がない。
「また、ふられちゃったか」
お天気キャスターの君は今日も予報を外してしまったらしい。
そんな君に僕は恋をする。
ブラウン管越しにしか会ったことのない君の笑顔はきっと僕だけのもの。
だから僕はみじめにふられたって悔やんだりはしないんだ。


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