桃太郎殺 人事件(問題編)

桃太郎殺 人事件(問題編)


「おい、そこのケダモノ。きび団子をくれてやるから、俺様の家来になれ!」
 人間のオスにそう声をかけられたキジは、空中で羽をはばたかせながら怒ったように叫び返します。
「アンタ、何様だよ!空も飛べない人間の分際でいきまきやがって。だいたいそれがキジにモノを頼む態度か!」
「へっ、田舎鳥が何をほざく。俺様を知らないってか?俺の名は桃太郎。正義の名のもとにこれから鬼退治に向かうところよ!」
 鼻腔を膨らませながら誇らしげに言う桃太郎の後ろで、一匹の犬が囁きます。
「よく言うよ、ホントは金銀財宝が目当てのクセに」
「なに〜!てめえ、もう一遍言ってみろ。口ン中、手えつっこんでその舌引きずり出してやるぞ」
 そういってる間にも、桃太郎は犬の舌をグイとひっつかんで引っぱりだしています。
 とはいえ、なにしろ相手は犬ですから口の中に手を入れるまでもなく、舌をつかむことができたのですが・・・。
「いででででで・・・ご、ごめんなさい。もう二度と言いませんから堪忍してくらはい」
 犬はキャンキャン鳴きながら哀願します。
 すると犬の隣りで「日本一」と書かれたノボリ旗を手にした猿が割って入ってきて、
「桃太郎さん、そのくらいにしてやってください。仲間割れはよしましょう」
「てめ、このサルキチが!知ったふうなこと、ぬかすんじゃねー」
「あなた、何をそんなにカリカリしてるんです?動機はともかく、あなたには悪い鬼を退治するという大義名分がある。正義はあなたにあるんです。もっと堂々としてればいいんだ・・・キジさん、あなたもここで出会ってしまったのが運のつきだ。おとなしく彼に従ったほうが身のためですよ」
 そう言う猿の体には包帯がぐるぐる巻かれている。一方の犬は体中痣だらけだ。どうやら、言うとおりにしないと君も痛い目をみるぞ、とでも言いたいらしい。
 しかし、このキジもなかなか負けん気が強いようで、
「そんなに俺を家来にしたかったら、力ずくでやってみなよ」
 と言い捨てて、遠く山のほうへ飛んでいきました。
 空も飛べない奴にこの俺を捕まえられるもんか、キジはそうタカをくくっていたのです。
「甘いな」
 桃太郎がニヒルに笑ってそう呟くと、おもむろにお腰につけたきび団子を一個取り出しました。
 これを見た犬と猿の顔がサッと青ざめます。
「まさか・・・」
 なんと桃太郎は、大リーグ投手よろしくザッと振りかぶると飛び去るキジめがけてきび団子を投げつけたのです。
「キャン!」
 きび団子はキジの頭に見事命中。キジは脳震盪を起こし、さながら落下傘の如くゆっくりと落ちていきました。
 その後、このキジが桃太郎の三匹目の家来になったことは言うまでもありません。


 さて、道中、折り返しあたりまで歩を進めた桃太郎一行。
 今でいう栃木県のとある神社にて、昼寝を兼ねて少し休んでいくこととあいなりました。
 そんな中、良識派の猿が桃太郎に尋ねます。
「ときに桃太郎さん、鬼ヶ島には屈強な大鬼が数十匹もいると聞き及びます。我々一人と三匹で勝算はあるのでしょうか?」
「懸念するな、猿よ。その辺にぬかりはない。俺に考えがある」
 桃太郎は腰にぶらさげた巾着から二つの小壜を出して家来たちに見せました。
 寸分違わぬ形状をした透明な壜には、それぞれ紅い液体と藍い液体が目一杯に入っています。
「まず俺たちは、図体だけのバカな鬼どもに取り入って『あなたたちの家来にしてください』と媚を売るんだ。無論それは真っ赤な偽り。鬼めらをたばかって奴らの懐に潜入するって寸法よ。そして機をうかがい奴らの飯にこの紅い液をちょびっとばかり混ぜてやる。それで万事祝着ってもの」
「その液は一体・・・?」
「こいつか?こりゃあとんでもねえ猛毒だ。これ一本で鬼五千匹は殺せるな」
 それを聞いた犬が慌てて口を挟みます。
「そんな!鬼退治ではなく、鬼殺しをするんですか?いくら悪い奴らだからって何も殺さなくとも・・・」
「心配するな、殺しゃあしねえよ。こっちの藍い壜はな解毒剤なんだよ。毒が回って身動きが取れなくなった頃合を見計らい、解毒剤を奴らの目の前にちらつかせるんだ。こいつが欲しかったらてめえのツノを折れと言ってな」
「聞いたことがある。鬼はツノがなくなるとその霊力を失うとか・・・」と、これはキジの発言。
「そういうこった。どうでえ、俺って頭いいだろ?てめえらみたいなケダモノとはオツムの出来が違うんだよ・・・おっと、小便が詰まっちまったい、ちょっくら厠に行ってくらア」
 桃太郎はよっぽど急いでいたのでしょう。
 大事な小壜ときび団子の入った巾着を置いたまま用を足しに行ってしまいました。


 そして数刻後。
 すっきりさっぱりして戻ってきた桃太郎。はて、家来たちの姿が見当たりません。
 ところが桃太郎、ちっとも慌てる様子もなく、
「あいつら、まさか逃げたんじゃねーだろうな・・・いや、まさかな。俺の執念深さは身に沁みて知っているはずだ。俺から逃げようものならどこまでも追いかけてってやるぜ。どうしても逃げたかったら、この俺様を殺すくらいしてくんねえとなあ・・・っと、そういや少々小腹がすいたな、団子でも食うか」
 桃太郎は、そこに置いてあった巾着からきび団子を取り出してパクリ。
 するとどうでしょう。桃太郎は急に喉をかきむしって苦しみだしました。
「う・・・ぐぐ」
 血走った目で、あたりを見回すとあの猛毒の入った紅い小壜が半分ほど空になっています。
「くそっ、あいつら俺に毒を盛りやがったな・・・」
 あの藍い小壜・・・解毒剤さえあれば・・・!
 しかし桃太郎の希望は次の瞬間、ものの見事に粉砕されてしまいました。
 文字通り藍い小壜は粉々に砕け、大地がすべて飲み込んでしまっていたのです。
「く、くそお・・・誰が・・・誰がこんなことを・・・」
 憐れ憐れや主人公。
 かくして桃太郎は鬼の宝物をせしめてウハウハの生活を送ってやろうという誠に身勝手な志半ばにして息絶えてしまったのでありました。


「ふむ、つまり下手人はこの中におるというわけじゃな」
 大まかな経緯を聞き終えた寺の住職がたっぷりと蓄えた顎鬚をさすりつつ、三匹のケモノたちの前でそう宣言しました。
 聞くところによると、桃太郎が厠に行ったあと、ほかの三匹もその場を離れていたというのです。
 つまりは、その小壜の入った巾着は、しばしの間、放置されていたというわけでして・・・
「それにしても、何度聞くにつけ、このホトケ、酷い男だったようじゃのう」
 とまあ、素直な感想を述べた住職が合掌して小さく念仏を唱え始めると、勢い込んだキジがケンケン鳴きほえます。
「まったくもってそのとおり!私利私欲のために、関係のない俺たちまで巻き込んでからに!殺しても殺し足りん奴だったよ。誰だか知らんが、こいつを殺してくれて感謝感激だぜ」
「ほう、すると毒をきび団子に混ぜたのはお主ではないのだな」
「当たり前だ!俺がそんな卑怯なマネするか!」
 今度は犬がワンワンと申し出る。
「下手人なんて誰でもいいじゃないか。とにかくこいつは死んで当然の奴なんだから・・・見てくださいよ、この生傷。アイツ、些細なことですぐ暴力をふるうんだ。もしアイツが生きていたら、動物愛護協会に訴えてやるところですよ」
 そして最後に猿がキャッキャと語ります。
「そういうことですね。この際、誰がやったかなどどうでもいいこと。もしかすると何か訳あって自分で飲んでしまったのかもしれませんしね・・・とにかくこれで私たちは自由の身だ」
 ケンケン、ワンワン、キャッキャ。
 三匹の意見が概ね一致し、それでは解散となった段、ずっと考えてこんでいた住職が「あいや、待たれよ」と彼らを呼びとめました。
「お主ら、よく聞け。この男が生前いかに悪い行いをしていたかはともかく、人様を殺めたことは反省せねばならん。下手人にはそれなりの罰を受けてもらわねばのう・・・」




 さて、桃太郎殺しの下手人は「犬」「猿」「キジ」のうち誰なのでしょうか?正解は解答編にて!


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