桃太郎殺 人事件(解答編)

桃太郎殺 人事件(解答編)


「おいおい、待ってくれよ。ホントに俺じゃねえって!」
 桃太郎殺しの罪を償えと言われ、一番血の気の多いキジが真っ先にくちばしを尖らせて抗議します。
 住職は落ち着き払ってそんなキジを宥めます。
「まあ、そう熱くなるな、キジよ。お主がやったのではないのは自分自身よく分かっていることじゃろうて」
「ナニ分かりきったこと言ってンだよ、坊さん。てめえのやったことをてめえで知ってるのは、健忘症でもない限り当たりめえのことだろう」
 すると犬がすかさず揚げ足を取り、
「でも、トリは三歩あるくと忘れるっていうよ」
「てめ、犬コロ、俺にけんか売ってんのか!それに三歩あるいて忘れるってのは鶏のことだろうがよ」
「似たようなもんじゃないか」
「にゃにおう!」
「なんだよお!」
 と、額を寄せ合い一触即発のキジと犬。
 そこへ住職が仲裁に入ってきます。
「まあ待て。わしが言うてることはそういうことではない。キジであるお主には、この犯行が不可能だと証明できるはずだろうと言うておるのじゃ」
「え・・・ああ、そういう意味か・・・ん、どういう意味だ?」
 訝しげに首を傾げるキジを見て住職が高らかに笑います。死体を前にして不謹慎この上ないのですが・・・
「フォッフォッ、己のことなのにまだ分からんか。所詮お主もただのケモノよのう」
「なんだ坊主、てめえも俺にけんか売る気か!」
「そうではない。ときにキジよ。お主にあの鳥居が見えるかの」
 百歩も先の鳥居を指差しそう問うた住職。
 鳩ならぬキジが豆鉄砲を食らったような顔でキジが驚きます。
「な、何が言いたい?見えるに決まってんだろ。夜こそ鳥目で何も見えなくなっちまうが、昼ならばっちり遠目がきくんだ。ケモノだからってバカにすンな」
「ならば、あの鳥居の色は何色じゃ?」
「え、あ、うう・・・」
 キジはたちどころに言葉を詰まらせてしまいました。
 残念なことにキジには、それを答えることができなかったのです。
「のう、分からんじゃろう?お主には、いや、鳥は皆、色を識別できんのじゃ。つまりお主には、巾着に入った紅と藍の小壜の区別がつかんということなのじゃよ」
「あ、そっか!言われてみりゃあ確かに・・・」と、ポカンとくちばしを開けるキジ。ああ、赤っ恥。キジも鳴かずば撃たれまいとはまさにこのことです。
「それなら僕も同じだ。あの鳥居の色は分からない」
 そう相槌を入れたのは犬でした。
「そうじゃ。犬もまた同じように色の区別がつかん。そういう眼の構造なのじゃ。お主らに紅い壜だけを開けて、その毒薬を団子に仕込むことはできんのじゃよ」
「するってえと・・・」
 キジと犬は残った一匹、猿のほうを向き直ります。
「そう、これは簡単な消去法の問題じゃ。桃太郎を殺した下手人は猿よ、お主じゃな」
 すると、ずっと黙りこくっていた猿はフッと一笑し、あっさりと犯行を認めてしまいました。
「さすが住職。やはり人間は賢いですね。そうです、桃太郎さんを殺したのは確かに私です」
 人間のほかに色を識別できる唯一の動物である猿が住職の前に進み出ます。
「生きる価値もない者とはいえ、無為に生き物を殺めるは大罪。やはり罪は償わねばならぬかもしれませんね」
「猿さん、アンタが下手人だったのか・・・でもやっぱり、あんな奴なんかのために罪を償う必要なんてないんじゃないかなあ」
 と、犬が進言するも、猿は己に厳しく一歩も譲りません。
「いや、思うに、ここで罪を償うことは猿としての誇りにかけて避けてはならぬことなのだろう。私はただのケモノではない。誇り高き猿なのだから。住職、どんな罰でも遠慮なくこの猿めにお与えください。甘んじてお受けいたしましょう」
「ケモノとはいえ、その心意気や潔しじゃの。ならば・・・」
 住職は満足げに頷くと猿に竹箒を与えて言いつけました。
「猿よ、お主にはこの境内の掃除を頼もう。これがお主に与える罰じゃ」
「な、なんと埒もないことを・・・」
 これにはさしもの猿も固まってしまいました。
「とてもとても、この程度の罰では罰とは言えますまい」
「猿の浅知恵が何を申すか!どうせハナっから罪を逃れる気などなかったのであろうに。その紅い壜を持ち去って己が命を絶つつもりでもあったか」
 いつの間にか猿の手に握られていた紅い壜を目敏く指して喝を入れる住職。住職には何でもお見通しということであります。
「命を粗末にするものではない。お主の罪はこの寺に免じて赦してやる。いやさ、生きてその罪を償うがいい」
「住職、それはどういうことでございますか?」
「鬼退治じゃよ。お主が鬼ヶ島へ向かい、その毒をもって鬼どもを見事退治してくるのじゃ。なくなった解毒剤は、わしがなんとか都合してくるでの」
「・・・勿体なくも慈悲深きお言葉、痛み入りまする」
 猿は涙ながらにそう礼を言います。
「しょうがねえ、乗りかかった船だ、俺も付き合うぜ」
「ぼ、僕も行きます!」
 友情厚いキジと犬が、そんな嬉しいことを言ってくれたりなんかして・・・
「フォッフォッフォー」
 住職の笑い声が木霊して、これにて一件落着。
 さあてここでお立会い!
 この寺こそが、かの高名な栃木県は日光東照宮でありました。
 そんな彼らを神輿舎の長押上から三匹の猿が微動だにせず見下ろしております。
 猿たちが口々に申します。
「そなたが罪はこれにて帳消し。今の一件、見なかったことにいたそう」
「おお、わしも一切他言はせぬぞ」
「ふむ、ならばわしは何も聞いておらん。なーんにもな」
 見ざる、言わざる、聞かざる。
 これぞまさしく三猿なり!!

 おあとがよろしいようで・・・


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