植物庭園殺 人事件(問題編)

植物庭園殺 人事件(問題篇)


「う〜む、道に迷っちまったかな……」
 下河原刑事は覆面パトカーのハンドルを切りながら、まことに頼りない台詞を吐いた。
「さっきの国道への入り方をひとつ間違えたみたいですね」
 助手席で道路地図を開いている同僚の新人刑事円谷冴子が抑揚のない口調で相槌を打つ。
 7月上旬の日曜日、日没が近い頃合。
 日中は照りつける太陽も眩しく、本格的な夏の到来を思わせる気候だったが夕方になって大分涼しくなっていた。
 二人の刑事は出張からの帰り道であった。この辺の土地は詳しいんだ、と力説する下河原刑事の弁を信じたのが運のつき、ものの見事にロストロードしてしまったというていたらくである。
「ここはしばらく一本道になっていますが、次の三叉路を左に折れれば元の道に戻れますよ」
「いやあ、面目ない。しばらく来ないうちに道が変わってやがんの。こりゃ、帰りは夜になりそうだな」
「わたしなら別に構いません。それより安全運転で行きましょう。あの、よかったら運転かわりましょうか?」
「あー、いいよいいよ。俺は運転してたほうが落ちつくんだ。それにこちとら早く帰ったところで待ってる家族がいるわけでもないしな」
「独りじゃ何かと大変でしょう。全部自分で賄わなきゃならないし」
 下河原刑事は40半ばでバツイチの男やもめである。彼は車の窓を薄く開けると煙草に火をともし、やや卑屈気味に喉を鳴らした。
「ふん、そうでもないぜ。むしろ独りになってせいせいしてる。かみさんには悪いことしたと思ってるが、ま、刑事なんて人種は家庭なんか持つもんじゃねえな。仕事は不規則だし、結構危険な仕事だしな……冴子ちゃんも結婚したら、こんな仕事さっさと辞めちまったほうがいいぜ」
「本当にそう思ってるんですか?」
「ああ、まあな……」
 明らかに強がりととれる下河原の言い草に思わず苦笑する冴子。
「でも、九条警部補は家庭と仕事、ちゃんと両立してますよ」
「あの人は子供がいるからなあ。しかも遅くに出来た子だろ。ほら、子はかすがいって言うし、その点、うちは子供がなかったから別れるときも簡単なもんさ……あー、やめやめ、こんな話。なんかもっと面白い話でもしねえか」
「はあ……」
 根が真面目な冴子は先輩刑事の希望どおり話題を転じようと思考をめぐらせる。
 やがて彼女はふと思いついたように、「じゃあ、簡単な心理テストでもしてみましょうか?」と提案した。
 すると、下河原はたちどころにしかめっ面をつくってぼやく。
「テストはガキの頃から嫌いなんだよなあ……まあ、いいや。で、どういうやつだい?」
 下河原は吸いかけの煙草を揉み消して聞く態勢をとった。
「まず、海を思い浮かべてください。何もない海。どこまでも続く水平線」
「おお、思い浮かべたぞ。それから?」
「次に、そこになにかひとつだけ描き加えてください」
「そうだな……うん、やっぱ太陽かな。そんで、次に何すりゃいい?」
「はい、それで終わりです」
「あん?それだけ……そんなんで何が分かるってんだよ?」
 物足りなげな顔の下河原に冴子が澄ました顔で応える。
「心理学で海というのは、その人の人生そのものを暗示しているんです。そしてそこに描き加えられたものが、つまりはその人が今最も求めているものを意味します。例えば、船なら仕事、ヨットなら余暇、鳥なら自由、雲なら仲間といった具合です。それらには一応そう読み取れる解釈があるんですけど……」
「冴子ちゃん、そんな講釈はどーでもいいよ!結局、太陽と言った奴は何を一番に求めているんだ?」
 勿体つけるなと言わんばかりに下河原が助手席をちらりと見やると、冴子は我が意を得たりとばかりに意地悪っぽい目で下河原を見返した。
「太陽は家庭の象徴なんです。太陽を真っ先に思い浮かべた人は家庭のぬくもりを渇望し、それに甘えたい、支えて欲しいという欲求を潜在的に持っているんです」
「ゲ……全然当たってねえじゃんかよ。な〜んかウソくせえな、それ」
「あくまでも潜在的な欲求を調べるテストですから、本人は意識していないケースが多いんです」
 そう言われても、どうにも合点がいかない下河原が再び煙草をくわえて、「じゃあ、冴子ちゃんは何を連想したんだい?」と、尋ねてくる。
「わたしですか?わたしはたしか虹でしたね」
「虹?そんなの真っ先に思い浮かぶか、普通?で、そいつはどういう意味があるんだ」
「はい、虹が示すものは……」
「うわっ!!」
 冴子が答えかけたのと同時に下河原が急ブレーキを踏んだ。慣性の法則に従い前につんのめるふたり。シートベルトをしていなかったら、瘤のひとつもできていたかもしれない。
「危ねえじゃねえか!」
 早めに点灯していたヘッドライトには冴子と同年輩と思しき女が道の真ん中にへたり込んでいる。彼女がいきなり車の前に飛び出してきたのだ。冴子たちは車を降りてその女性に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「あんたなあ、飛び出してくるなら相手選べよ!こちとら別れたかみさんの慰謝料払うんで手一杯なんだ。あんたに払える慰謝料なんて一銭もねえんだ!」
 と、本気とも冗談ともとれるようなことを言う下河原刑事。女はまともに受け答えもできないほどの錯乱状態だ。
「智之……智之が……」
「しっかりしてください。どうかしたんですか?どうして飛び出したりしたんです?何かあったんですか?」
 冴子が女の肩を揺すって落ちつかせようとする。
 そこへ、さらにひとりの男が駆け寄ってくる。
「愛!お前、何やってんだよ!」
 その男もやはり同じくらいの年かさらしく、ジーンズにTシャツといったラフないでたちである。
「あんた、この無謀女の知り合いか?」
「愛がどうかしたんスか?」
「どうもこうも、今しがた俺たちの車の前にいきなり飛び出してきやがったんだ。ったく、刑事の車に当たりに来るとはいい根性してるよ」
「刑事……」
 その言葉に過敏に反応する二人の男女。男のほうが少し安堵したように、しかし興奮気味に申し出る。
「あんたら、警察の人か。ああ、助かった。悪いんだけどちょっと来てもらえないスか。すぐそこの喫茶店スから」
「何か事件でも?」
 冴子の問いに男が青ざめた顔で頷いた。
「仲間が……智之が死んでるんですヨ!」


 彼の案内で辿りついた現場には、たしかにひとりの男が死んでいた。いや、正確には殺されていたと言っていいだろう。現場は喫茶店の裏庭。そこには店主の趣味らしく、狭いながらも様々な木々花々が栽培されていた。ビニールハウスはおろか飾り棚すらないとことん自然を意識したシンプルな庭園である。被害者はなかでも一際高い木の下で息絶えていた。
 下河原刑事が携帯で所管の警察署に応援を呼んでいる間に、冴子はうつ伏せに倒れている死体を詳細に調べていた。
「後頭部に挫傷の後がみられます。出血がないので、脳をやられたのかもしれません」
 検死を終えた冴子が面を上げてそう見解を述べる。
「凶器はこの鉢植えみたいだな」
 死体から5メートルほど離れたところにあった砕けた鉢植えの欠片をハンカチで摘み上げて下河原が言う。粉々に砕けた陶製の鉢が、萎れた花と乾いた土とともに彼の足元に散らばっている。そして、割れた鉢植えの場所から引きずるような跡が死体のところまで続いてる。
「ふむ、状況から判断して、被害者は手近にあったこの鉢植えで殴られたんだな。そして、自らほふく前進してその木まで行ったか、或いは犯人の手によってここまで運ばれたかしたんだろう」
「おそらく被害者自ら行ったのでしょうね。ちょっとこれを見てください、下河原さん。被害者の肘から手首にかけて泥が多く付着していますよね?犯人に引きずられたものだとするとこうはいきません」
「ナルホドな。しかし何でまたそんなこと……」と、わけわからんとばかりに頭をバリバリ掻く下河原。
 現場には刑事たちのほかに4人の男女が会していた。
 まずは、魚住愛(うおずみ あい)、24歳の理容師。先刻、車の前に飛び出してきた女性である。彼女は大分落ち着きを取り戻しているようだ。
 次に、魚住愛を追いかけて来た男、稲葉英児(いなば えいじ)、25歳、鳶職
 残りの二人は花岡守継(はなおか もりつぐ)花岡望(はなおか のぞみ)。ともにやはり24歳双子の兄弟である。守継はフリーのカメラマン、一方の望は保父だ。顔や背格好はそっくりだが、身なりも全く違い、望の方は銀縁の眼鏡をかけていたので、初対面の刑事たちでも取り違えることはなかった。
 そして、この場で冷たい死体と成り果てた男は渋谷智之(しぶや ともゆき)、25歳。この喫茶店のマスターだ。
 一通りの自己紹介を聞いた下河原刑事が一同に質問する。
「あんたらは被害者とどういう関係なんだ?それと状況を詳しく説明してもらおうか」
 誰もすぐには答えず、互いに譲り合う気配があった。やがて、花岡望が代表して進み出る。
「僕たちは全員高校時代からの友人です。いつも集まるときは決まってこのメンバーで、今日は店を閉めて貸切にして午後からホームパーティーをしていました。智之は会が始まってすぐ、花に水をやってくると言って裏庭……つまりここへ出ていきました。この庭園は彼の趣味なんです」
「ほう、それで?」
 下河原が先を促すと、続きを稲葉英児が引き取って続けた。
「2時間くらいしても智之が戻ってこなかったんで、何やってんだ、あいつ、って話しになって全員で裏庭へ行ったんスよ。そしたら、こんなことに……」
「その間、全員が揃って席を外すことはなかったのか?」
「ええ、なかったと思いますヨ……なあ、みんな」
「つまり君たち4人はそれまでずっと喫茶店でパーティーをしていたと……その間、他に来客はなかったか?」
 下河原はそう言って、喫茶店の方に目を向ける。見えるのは裏口の扉だけで犯行現場は喫茶店の中からは完全な死角になっている。この裏庭は店も含めて高い塀で囲われていた。外部から裏庭へ進入するには、店内を通って裏口へ出るしかない。そして、出ていく時もまた店内を通過しなければならない。そういう意味でもこれは極めて重要な質問だった。
 ところが下河原の問いかけに誰もが目を逸らし、発言を避けようとしている。つまりは他に誰も客はこなかったことを意味する。要するに……。
あなたたちの中に犯人がいるということになりますね」
 円谷冴子が一同を見まわして冷たく言い放った。
「それに外部の犯行なら何故こんな困難な状況下で犯行に及ぶ必要があるというのでしょう?仮に梯子を使って進入したとしても、庭の中には梯子は置いていないから塀をのぼって逃走することは不可能ですからね。これはあなた方の中に犯人がいた場合でも同じことが言えます。容疑者はこの4人に限定されてしまうわけですからね」
「そうさなあ、いずれにせよ、衝動的な犯行ってとこだろうな。ま、所轄の警察が来たら個別に事情聴取することになる。それまではあんたらの身柄は拘束させてもらうからな」
 青年たちは一様に顔を青ざめさせ、お互いの顔色を窺っては、目があうと慌てて逸らすという行為を繰り返している。無理もない。友人が殺され、しかもこの中に犯人がいるであろうというのだから……。
「ところで、この4人の中でその時間、一度も店から離れていない人はいますか?」
 冴子が念のため、そんな質問をするも、応えは返ってこない。
「4人全員に完全なアリバイはナシってことか……」
「それにしても被害者は何故、この木まで移動したのでしょうか?助けを求めるんだったら裏口の方へ向かうはずなのに……」
 張りつめた緊張感の中で冴子が先刻の疑問を蒸し返した。
「ああ、確かにそいつは不可解な行動だよな……渋谷智之は裏庭の中ほどで頭を殴られ転倒、そのまま痛む頭を引きずるようにして、裏口とは反対側のこの木の根元まで来てる」
 下河原は足元に転がる死体の周りに落ちている赤い花を拾い上げた。その花は死者への飾花のごとく美しい形状をしていた。見上げると木に咲いているのと同じものである。
「おい、こりゃ、何て花だ?」
柘榴ですね、それは」
 冴子がすかさず答える。
「ザクロ?……ザクロってあの食べる柘榴のことか?」
「そうです。実をつけるのは秋ですから、今がちょうど花の咲き頃なんです……あ、もしかすると」
 遺体検分の際、ここまで移動したのには何らかの意図があると考えた冴子は、犯人を示す手掛かりでも持ってはいまいかと、手の中や、ポケットの中を調べてみたのだがそれらしきものは何も見つけられなかった。しかし、期せずして下河原が口にした言葉……食べる!で、いまひとつの可能性に気がついた。
 冴子は手袋をはめた手で、果敢にもきつく閉じられた被害者の口をこじ開けようとする。
「いや!やめて……」
 傍目には残酷ともとれる行為に魚住愛が短く悲鳴を上げて目を背ける。

 はらはらと……

 果たして、案の定と言うべきか、渋谷智之の口の中から柘榴の花びらが溢れ出した。
「お、おい、これって冴子ちゃん、お得意の……」
「ダイイングメッセージでしょうか?」
「つまり、あれだな、被害者は柘榴を使って犯人を示そうとしたってわけだな……ははあん、判ったぞ!」
 きらり〜ん♪
 ふいに下河原の頭上に豆電球が点灯した。何かを閃いたらしい。
「こいつは花言葉だよ!やっぱ、花といえばこれっきゃないだろ!」
「馬鹿!」
 嬉々として捲くし立てる下河原刑事に水をさすようにぴしゃりと言ったのは花岡守継だ。
「なぬう?」
 さあ、下河原は怒った怒った。首をぐるりと守継に向け、まるで鬼のような形相である。
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!どうせ俺の推理なんてな行き当たりばったりだよ。だからってお前みたいな若造に馬鹿呼ばわりされる筋合いはねえ!」
「そうね、確かに馬鹿ね」
 掴みかからんばかりの柔道有段者の猛者の背中に向かって、今度は冴子が冷や水をぶっ掛けるように追い討ちをかける。
「な、な、な、なんだよ、冴子ちゃんまで!」
 当惑する下河原に冴子がきょとんとして尋ねる。
「下河原さん、何をそんなに怒っているんです?『馬鹿』というのは柘榴の花言葉ですよ。まさかその意味を知らなかったってわけじゃないですよね」
「ぐ……」
「他にも有名なところで『優しさ』とか『円熟美』なんていうのもありますが、まあ、どれもあまり関係なさそうですね」
 冴子には塵ほども悪気はないのだが、結果として捜査一課の猛者のやわなハートはずたずたに切り裂かれてしまったようである。恥ずかしくて顔は真っ赤っか。庭の隅っこに背中向けてしゃがみこんで、地面にひたすら「の」の字を書いていたいような、超ブルーな気分であった。
 すっかり滅入っている下河原を尻目に冴子が感心したように、守継に声を掛ける。
「それにしても、守継さん、あなた、お詳しいですね」
 冴子からのお褒めの言葉に、守継ははにかみながら応じる。
「ええ、まあ……不思議なもので双子の望とはさっぱりなんですが、智之とはいろんな面で趣味があいましたからね……植物だけでなく、料理や陶芸、あと中国の古典詩なんてのも……」
 そこまで言った守継がハッとしたように口を噤んだ。冴子は目敏く守継の表情の変化を読み取ったが、先輩刑事はものの見事に見逃していた。
 中国の古典詩……?
 何かを思い出そうと眉根を寄せる冴子は、やがてある言葉の語源を思い出した。
 その言葉はたしか柘榴に関係があったはず……。
 だとすると、犯人はあの人を指しているのは歴然!
 こうして冴子はあっという間にダイイングメッセージの謎を完全に看破した。あとは鑑識の報告を待てば裏が取れるだろう。容疑者が限定されている中での衝動的な犯行だとしたら、その辺も期待していいはずだ。
 冴子はそう判断して、この場では敢えて犯人を告発するのを控えることにした。下手に刺激して無茶な行動に出られては元も子もない。
 ところが、冴子の思惑は花岡守継の一言でそうもいかない状況になってくる。
「どうも逃げられそうもないようですね、刑事さん。俺、自首しますよ」
 なんのつもりか花岡守継が、いきなり下河原刑事に両手首をそろえて差し出してきたのだ。
「なんだァ。お前が犯人だったのか?」
 呆気ない幕切れに拍子抜けしたかのように下河原の顎がだらりと下がる。魚住愛、稲葉英児、花岡望らも一様に驚いて守継の方を見る。
「じゃあ、この柘榴はなんだったんだ?まさか、花岡の「花」ってんじゃねえだろうな」
「でも、名前に花がつく人なら望さんもそうですよ。そもそもただ花を示したいなら手近にもたくさんあります。被害者は最後の力を振り絞って柘榴の木まで這ってきたんです。やはり意味があるとしたら花ではなく柘榴のはず。つまり犯人は……」
 冴子が言いかけると、それを阻止せんとばかりに守継が逆ギレする。
「とにかく、俺がやったんだよ!折角自首しようってのに四の五の言わないで欲しいな」
「だったら動機は何なんだ?なぜ、友人を殺したりしたんだ?趣味があう奴じゃなかったのか?」
 下河原が手錠を出すか出すまいか決めかねつつ、そんな質問を浴びせかける。
「彼とはいろいろといざこざがありましてね……詳しいことは、みんなの前ではちょっと言いたくないですが……」
 この人は犯人じゃない。
 冴子は半ば確信めいたものを秘めつつ守継に問いかけた。
「では、守継さん、2・3質問させてもらっていいですか。まず第一にあなたが裏庭に行ったとき智之さんは何をしていましたか?」
「花に水をやってましたよ。本人もそう言ってたしね。ほら、そこに水道の蛇口があるでしょう」
 守継が顎で示す方を見ると、確かに水道管が立っていて、その蛇口にはビニールホースがつけられている。
「そのホースの先をつまんで上に向けて放水してました。ま、いつも彼はそうしているんですけどね。だってジョウロなんか使ってたらそれこそ時間が掛かってしょうがない」
 今日一日かんかん照りだったにも拘わらず庭一面が均等に濡れており、草木の葉っぱにまで水滴がついていることから判断しても彼の言うことに不自然な点はみられなかった。
「それで、その後どうしました?」
「放水が終わって、あいつが俺のところにやってきて……そう、ちょうどそこに俺は立っていました」
 と、鉢植えの破片が散らばっている場所を指さす。
「そこで口論になって、掴み合いのケンカになって、気がついたらそこに置いてあった鉢植えであいつの頭を殴ってたってわけです。あいつばったり倒れて動かなくなって、俺、急に怖くなって……」
 彼がそこと示した場所には、確かに鉢植えがまとめて置いてある。その中のひとつを手に取ったということらしい。
「それで、何食わぬ顔をして店に戻ったと……救急車を呼ぼうとは思わなかったんですか?」
「いや、俺、あいつ死んでしまったと思ったもんだから……でも、殺すつもりなんて本当に始めからなかったんです……」
 と、芝居っけたっぷりに目頭を押さえる守継に、冷静に訊問を続ける冴子。
「ところで、あなたは濡れた体をどうやって乾かしたんですか?」
「……え?」
「だって、あなたが裏庭に行ったとき、被害者は放水していたんでしょう?だったらあなたも多少の水をかぶったはずです」
「ああ、そういうことですか。俺が裏口の戸を開けてときはもう、あいつ、水やりを終えようとしていましたからね。あいつが蛇口を閉めたのを確認してから庭に入っていったんですよ……ねえ、刑事さん、そんなこともうどうでもいいじゃないですか?俺が智之を殺した。この事実だけあれば充分でしょ」
「まあ、尤もな話だな」
 下河原刑事は彼の証言に得心したらしくポケットから手錠を取り出した。
「とにもかくにも、詳しくは署の方でたっぷり聞かせてもらうとしよう」
「その必要はありません」
 今まさに守継の手に手錠を嵌めようとする下河原に円谷冴子が待ったをかける。
 冴子は、花岡守継に歩み寄ると、一語一語区切るように言った。
「守継さん、あなたは嘘をついています。なぜ、そこまでして犯人を庇うんです?その理由を聞かせてもらえませんか」




 
 さて、皆さん、犯人は分かりましたか?
 今回の出題は、『柘榴の解釈』と『守継の証言の矛盾』です。
 それでは、引き続き解答篇をご覧ください。 



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