今日も今日とて物語の舞台は神奈川県警捜査一課である。
閑散とした課内、九条警部補が電話でなにやら話している。
「おお、岬君か、どうした……なにっ、コロシ!」
部屋に居合わせた下河原刑事と円谷冴子が、慌ててメモを手繰り寄せる九条の様子に顔を見合わせた。
「事件だな」
「みたいですね」
そしてふたりは九条の声に耳をそばだてる。
「……で、被害者は?……鈴木利子。利益の利に子どもの子。ああ、それから?なに、そうか!……うん……え?すまないもう一度言ってくれ……ほう、これはまた珍しい……わかった、2番目のホシだな……で、どういう状況なんだ?……そうか、うん……ああ、そうだな、現場の様子はファクシミリで頼む。ああ、簡単で構わない……」
やがて受話器を置いた九条がメモをひっ掴んで席を立ち下河原に声をかける。
「ちょっと課長のところに行ってくる」
「九条さん、殺 人事件ですかい?」
「うむ、柳瀬慶太郎っていう棋士がいるだろう」
「ああ、俺、この間の名人戦テレビで観ました。惜しかったっすよね」
「被害者はその愛人らしい。被害者の知人がマンションの6階にある被害者の部屋に行ったらドアには鍵がかかっていた。そこで管理人に頼んでマスターキーであけてもらったところ、そこに死体が転がっていたということらしい。詳しいことは追って報せてもらうことになっているが、まあ、今回は著名人がらみだからなあ、マスコミに嗅ぎつけられると厄介だよ」
「えっ、でもそれってただの自殺じゃ……」
「なにを言ってる!さっきの電話のやりとり聞いてなかったのかね」
「いや、だって、じゃあ密室殺 人……?」
「推理小説の読みすぎじゃないかね、下河原君」
上司に白い目でみられておさまりの悪い下河原が釈然としない気持ちを飲み込みつつ尋ねる。
「あの、やっぱ俺たちも現場行ったほうがいいですかね」
「いや、とりあえず待機で構わんだろう。とにかくことは穏便に運ぶに越したことはないからね。特にもうちの課長はそういうのがお嫌いだから」
そんなふたりの会話を傍聴していた冴子が割り込んで尋ねてくる。
「警部補、凶器はなんだったんですか?」
「すまない、円谷君。これ以上の質問はあとにしてくれないか。とにかくこういうことは早く課長に報告しないとあとでドヤされるからね」
と、そそくさと部屋を出ていってしまう九条。その背中には中間管理職の悲哀が漂ってみえなくもない。一見派手に思われがちな刑事という職業。しかし彼らは公僕であり、またサラリーマンでもあるのだ。
課長室で頭の前半分が豪快に禿げあがった捜査一課長と話している九条の姿がガラス越しに見えていたのだが、会話の内容までは残念ながら聞きとれない。冴子たちが課長室のほうを見ていると、それに気づいた課長がブラインドを下ろしてしまった。
やむを得ずそれをしおに席に戻ろうとする冴子を下河原が呼びとめる。
「なあ、こういう妙ちくりんな事件は冴子ちゃんの出番じゃないのか」
「え、わたしの出番……ですか?」
「そうだよ。冴子ちゃんもきいてたろ、今のハナシ。これってさ密室殺 人なんだぜ」
「そうでしょうか……」
「だって九条さん、自殺じゃないって言ってたじゃねえの。たぶん自殺とは考えられないような死に方をしてたんだぜ。となると、やっぱ一番の有力な容疑者は柳瀬棋士ってことになるのかねえ。動機は痴情のもつれってやつか。だとしたらこりゃあどえらいスキャンダルだぜ」
「…………」
ゴシップ絡みもあって興味津々の下河原とは対照的に、すこぶる食いつきの悪い冴子。そんな彼女の様子に下河原は訝しげに首を傾げてみせた。
「おや、今回はあまり関心がないみたいだな。三度の飯より仕事が好きな冴子ちゃんの食指が動かないなんて一体どういうこった?」
「いえ、それはですね……」
下河原の問いに答えようと冴子が口を開きかけたそのとき。
ピリリリリ―――
ファックスの着信音である。
下河原がファックス用紙を取ってきて冴子と一緒に覗き込む。
「おい、冴子ちゃん、これって……」
「岬さんからですね」
「だよな。これ、さっき九条さんが電話で話してた現場の見取り図だぜ」
九条警部補 殿 捜査一課 岬
電話で報告した部屋の見取り図です。 へたくそな図ですいません。
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では、ここで問題です。 この事件の真相はいかに? それでは、引き続き解答篇をご覧ください。 |
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