トモくんの生活と性格

LESSON7 トモくんの憂鬱


「友坂健(ともさかけん)さん」

病院の無機質なアナウンスがトモくんの名を『誤って』呼ぶ

字面だけをみれば男みたいな名前だが、トモくんはれっきとした〈彼女〉である

健康の「健」と書いて「のぞみ」と読むそうだ

さすがボクと同じ名づけ親を持つだけある

ボクの名前も一度見ただけで読めた人はいまだかつていない

生まれ落ちたその日から我が子に試練を与えてくださる

十字架を背負わせてくださる

そういうひねくれた親なのだ、あの人は

そしてボクも彼女も同じようにあの人に感化され育ってきた

ルーツは一緒ってわけだ

「アタシの方が先に呼ばれちゃったね」

あとから来て待っていたトモくんが長椅子から腰を上げる

ボクはそんな彼女を見上げて言う

「やっぱり病院ってとこも常連さんには待遇がいいのかね。診察の順番繰り上げてもらえるとか?」

「名前間違えられといて常連さんもないんじゃない」

そう言って診察室の向こうに消えたトモくんを見送るとふいに頭の中が空っぽになった

ボクの脳はとても便利だ

空気を入れ替えするように、いとも簡単に頭の中身が切り替わる

いままであった情報は海馬のあたりに押しやって

あ、そういや、冷蔵庫のマヨネーズ切れてたな、なんて思ってみたりする

あっ、

違うってば

それは哺乳瓶ぢゃないよ、マヨネーズだってば

だからー

違うってば

それは赤子ぢゃないよ、キューピー人形だってば

あーあ

だから言わんこっちゃない

キューピーちゃんってば、まよねえずマミレ



―――まいったな

ボクの脳みそはセルロイドで出来てるのかもしれない

しかも、とびっきり安物の

やがて、ようやくボクの名前が呼ばれる

トモくん同様、読み方は間違っていたけど、それもとうの昔に気にならなくなっていた

看護婦さんが悪いんじゃない、あんなの読めなくて当然だもん

父さんが悪いんじゃない、子供に命名する自由は誰にも侵されないんだもん

悪いのはみんなボク、生まれてスイマセン

トモくん、君が傷つくのは全部全部ボクのせいなんだよね?



ああ、ボクを壊してくれ

そしてささやかな金を掴むがいい

そう、ボクは『ブタの貯金箱』

先生、今日はなんだか気分がいいよ♪


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