兵庫加古川女児殺 害事件一考 〜円谷冴子&九条啓介篇〜

 




【兵庫加古川女児殺 害事件一考 〜円谷冴子&九条啓介篇〜】

I am 鉄壁王 (刑事 円谷冴子、MJ3参戦中)
で、おなじみのヒカコラですよ、こんにちは!


「まさかここまで難航するとはね……」
神奈川県警捜査一課の掛時計は午後7時をさしていた。
掛時計の真下にある応接兼打ち合わせ兼仮眠用のソファーで九条警部補が嘆息を漏らしている。
「加古川の事件ですか。あれからもうすぐ1週間になりますね」
上司の前にインスタントコーヒーを置きながら新人刑事円谷冴子が声を掛ける。
冴子と今夜当直勤務を仰せつかった九条以外は全員帰宅している。一課の照明は応接セットの上だけが灯っており、しかも蛍光管の一本がチカチカと切れかかっているものだから実に侘しい光景である。
冴子はトレンチコートを身にまとい帰り支度だったが、すぐに帰るのをやめて九条の向かいの一人掛けソファーに腰を下ろした。
10月16日夕方、兵庫県加古川市で鵜瀬柚希ちゃん7歳が自宅前で刺殺された。犯人はようとして知れず、新聞・テレビ等を連日賑わせている。
「自分の子どもがもし同じ目にあったらと考えただけでもゾッとするよ」
「犯人はまだ捕まってないんですよね」
「この手の事件は初動捜査で大勢が決まってしまうからね。時間が経てば経つほど事件解決は厳しくなる。なんとか犯人逮捕にこぎつけてほしいものだ。警察官として、ひとりの父親として切に願うよ」
と、熱いコーヒーを胃に流しこみながら九条はふと思いついて尋ねた。
「円谷君、君ならこの事件どう捜査する?」
果たして冴子は九条の問いには直接答えず、逆に質問を返してきた。
「警部補は犯人の動機は何だと思いますか」
思わぬ切り口に面食らう九条。
「動機か……被害者は胸と腹を刺されて亡くなっている。このことからも暴行や誘拐が目的でないことは確かだな。私が思うに幼い子どもを傷つけることが趣味の変質者あたりの仕業じゃないだろうか。最近はそういう輩が多すぎる。その一方で周りに対して無関心な大人も増えている。だからこういう事件が後を絶たないんだ」
「そうでしょうか?」
「え?」
九条は自分のコメントのどの部分に異論を述べられたのか掴めず、ひらがな1文字で率直に聞き返した。
「わたしには単なる変質者の犯行だとは思えません。たとえば犯人は被害者の父親か母親に恨みのある人間とは考えられないでしょうか」
「なんだって?」
「仮に犯人が被害者の父親の部下だったとしたらどうでしょう。いつも職場で娘たちの自慢をする上司につらく当たられていたとして、憎むべき相手に最大限のダメージを与えたいと考えていたとしたらどうでしょう」
「娘を殺す?」
冴子が小さく頷いた。
「わたしが一番気になっているのはなぜ犯行現場が自宅前だったのかということです。学校帰りでもいい、公園でもいい、ついでに言えば姉や妹でも構わなかった。上司の娘がひとりになる機会はいくらでもあったはずです。なのによりによって自宅の玄関前で犯行に及ぶとはあまりにもリスキー。犯行直前には姉と妹が玄関で被害者を出迎えています。それも当然犯人は見ていたはず。犯行時、別の誰かが玄関から出てきてもおかしくはない状況だった。なのに犯人はそこで事に及んだ」
「犯行現場が自宅玄関前だったのも計画の一環だったと?」
九条には啜ったコーヒーがことさらに苦く感じられた。
「あくまでも可能性のひとつとして考えられるというレベルですが、自宅前でみすみす我が子の命を奪われる、親にとってこれほどのダメージはないでしょう」
さらに冴子は可能性の検証だけならまだありますと前置きして語る。
「被害者は病院に搬送される途中に誰に刺されたかと訊かれ、大人の男の人だと答えています。これをそのまま鵜呑みしてしまうのも危険じゃないかと思うんです」
――犯行現場は暗かった。男っぽい女、あるいは男装の女性のセンもあると言いたいのだろうか。
そう勘ぐる九条だったが冴子の見解は違っていた。
「事件に子どもが絡んでいるかもしれません。たとえば被害者の同級生などが……」
「まさか! それはおかしいだろ。いくらなんでも小学2年生と大人を間違えたりはしないさ。背格好が違いすぎるし、第一同級生なら被害者は当然犯人の名前を知っていることになる」
「いえ、直接手を下したのは大人でも、間接的に子どもが絡んでいる場合を言っているんです。端的に言えば犯人は被害者の同級生の親である場合です」
「ああ、そっちか……」
「7歳の女の子が殺されるに足るだけの動機なんて通常は考えにくい。ですが子供同士だったらどうでしょう。些細なことかもしれません。テストでトップの座を奪われたとか、好きな男の子と仲良くしているとか、そんな取るに足らないことだったのかもしれません。なんにせよ子供同士のトラブルは子供同士で解決するべきなのでしょうが、すべての親がそれに介入しないとも限りません。あの子さえいなくなれば自分の子どもは……というふうに思う親御さんだって中にはいるでしょう」
「我が子の幸せのために消えてしまえばいい……それが動機?」
「はい、あくまで――」
「可能性のひとつ、だろ?」
そう言って九条は再び新聞に目を落とし記事を読み返した。
――それにしてもひどい事件だ。年端もいかない子どもの胸を躊躇なく刺せるとは一体どんな人間だろう。円谷君の推理も尤もだが私には人の親にそんな残酷なことができるとは思えない。いやできないと信じたい。
「警部補。わたし、そろそろ失礼します」
と、冴子がソファーから立って一礼する。
「――あ、ちょっと待って」
部屋を出て行こうとする冴子を九条が慌てて呼びとめた。
「今の君の推理、兵庫県警にも報せておいた方がいいかな?」
――新聞報道を見る限り捜査は行き詰まっているようだ。少しでも助けになれば……
しかし振り返った冴子はニッコリ笑って答える。
「いえ、その必要はないでしょう。わたしでも思いついたことですから、当然両親のセン、学校のセンも当局は当たっているはずです。報道規制が敷かれているだけで、もしかしたら既に有力な容疑者が挙がっているかもしれませんし」
初めて冴子と会った人なら今の発言を聞いて強烈な皮肉屋だと思うかもしれないが実はそうではない。彼女は本当に心からそう思って言っているのだ。
そして最後に言った次の言葉もまた彼女の素直な気持ちであった。
「どんな理由があるにせよ無抵抗な7歳の女の子を無惨に殺めた人間を日本警察が取り逃がすわけないじゃないですか」
that's all


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