破滅への道

破滅への道


Written by 皐葵  

 言葉だけでは物足りないと、しかし、行動が全てではないと静かな口調で囁く者がいる。その矛盾に近い人間の「愛」への執着は本能とも呼べる性なのだろう。
 誰かが耳元で融けるような語りをした。
「愛してる」
 どこをどう愛しているのか具体的な表現は見つからない。少年は少女の全てを愛していたのだ。そして、月並みな言葉が並ぶ。
「君が例え動物になろうと植物になろうと僕は見つけ出し、愛するよ。未来に続くこの時間をずっと君と過ごしたい。生まれ変わっても君を見つけ出す」
 傍から聞いたら鳥肌が立つような言葉もこの「恋人の時間」と言うものには有効なのだろう。少女はそれをうっとりと聞いていた。
 しかし、不意に少女は何かを思い立ったように少年から身体を離し、厳しい口調で言った。
「キレイごとね? 私はいや」
「だって、本当の事だから」
「どうしてそう言い切れるの? 私は嫌だわ。確かに私も貴方を愛してる。その魂も顔も身体も手も足も髪さえも」
 少女は言葉の通りに少年の身体を確かめるように撫でた。
「だから私は貴方の何が変わってもイヤ。髪の毛1本さえも貴方でないものに変わっても嫌なの。だって、貴方という人の全てを好きなんだもの。貴方のどこが欠けてもイヤ」
「それは僕だって同じさ!」
「でも貴方は言ったわ。動物になっても植物になっても・・・・・・生まれ変わっても・・・・・・それは、私ではないもの。
もちろん貴方でもないでしょう?私は貴方が好きなの!他のモノに変わった貴方は愛せないわ・・・・・・」
「ものの例えだって事が分からないのか?」
 根本的に「愛」に対する考えが二人は違った。
「君の愛してるって僕に対する感情はそんな程度なの? 僕の何かが変わったら愛せない? 怪我でもして顔が変わったら?」
 少年の言葉に少女は言葉を詰まらせる。
「君は「何が変わっても嫌だ」と言った。僕は違うよ。君という魂さえあれば僕は満足だ。もちろん、僕だって君の全てを愛しているけどね」
「だって・・・・・・そんな事考えられないんだもの・・・・・・今の貴方の何かが欠けてしまうなんて事・・・・・・」
 かすれた声で少女は少年に泣きついた。

 その矛盾に近い人間の「愛」への執着は本能とも呼べる性なのだろう。割り切れない相手への愛。その「愛」の本質とは誰にもわからず、こうして言葉にしてお互いの気持ちを量っているのだろう。恋人同士と言う言葉は「束縛、干渉、探り合い」。そんな意味も含んでいるのだろうか。
 そうして、恋人たちは愛の深さの確認のために議論を始め、結論も出ぬままその言い合いに終局を迎える。
 それが二人の終局になる恐れも含んでいる事は誰もが心の隅に考えている事でもあった。
 


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