勝手に終局 〜THE終局OF『1/10の悪夢』(問題編)〜
勝手に終局 〜THE終局OF『1/10の悪夢』(問題編)〜
Written by 理由
※予め、本サイト上『1/10の悪夢』を読んでから、これを読むことをお勧めします。悪質なネタバレは含んでおりませんが、原作からの引用や、原作で書かれているシーン以降の時間経過などが、ここには含まれます。
ヤラれた!――俺の命運もここまでか…。
松本は薄れゆく意識の中で、崩れ落ちる己の体を感じていた。
『絶対生き残る』――あの言霊に吹き込んだ力も、悪魔のような【犯人】の前には無力だった?――いや、あるいは言霊の力のお蔭で、彼はここまで長らえたのかもしれなかったのだが…。
ちっ…、それにしても誰に殺られたのかさえもわからないまま死んじまうなんてな…。ま、どのみち、今さら【犯人】がわかったところで、告発するだけの時間も体力も俺には残っちゃいねえが…。
その、悪魔のような【犯人】は、足下に転がった松本の体を冷ややかに見下ろしていた。構成員中ナンバー1の体力と体術を誇るその青年も、さすがに起き上がってくる様子はない。だが、確実にとどめを刺さねば!それが【犯人】たるものの務めなのだ、このゲームにおいては…!
松本には、もはや目を開ける力もなかった。しかし、かすかな意識の中で耳が、捉えた。
そうか、【犯人】はあんただったのか…!
耳が何を捉えたのか?それすらも、既に定かではない。【犯人】の声だったのかもしれない。あるいは息遣いか何かの特徴だったのかも…。
その日、その時刻のタイムチェックに松本が姿をみせることは、ついになかった。
守りに徹する――彼自身と、そして遙を守ることに!そう言っていた松本が、どうやら8番目の退場者となったらしい。食堂には遙と菅野のほかには、【代理人】の山口、そして【代理人助手】2名がいるのみである。
松本は本当に死んでしまったのか?――遙は目の前に残された唯一無二の構成員、菅野に問おうと思うのだが、言葉が出てこない。
「どうやら、松本君も退場したようだね…」
遙が認めたくないことを、菅野は飽くまでも冷静に言い放った。それは独り言のようであり、また、彼女に告げた言葉のようでもあった。
「退場」とは「死」のことなのか?それとも松本が【犯人】で「途中退場」したという意味か?――菅野の言い方からは、どちらともわからない。しかし――
松本は【犯人】ではない!――遙はそう思っている。恐らく菅野も、松本が【犯人】とは考えていないだろう。まさかその菅野自身が【犯人】だなんてことは――!
しかし遙は、すぐにその考えを打ち消した。ただの希望的観測にすぎないかもしれないが。
シーンは早送りされ、数回後(あるいは直後)のタイムチェックの時刻到来――。
食堂に姿を現わした構成員は菅野一人。タイムリミットまで、まだ幾分余裕があるものの、遙は姿をみせていない。はたして彼女は時間内に現われるだろうか?また、現われなかった場合、それは【犯人】の手にかかったことを意味するのか?――いや、何らかのペナルティを喰ったのかもしれないし、彼女自身【犯人】として途中退場するつもりかもしれないのだ…。
しかし菅野が考えていたのは、それとはまるで別のことであった。
僕は生きたいのか?
僕は死にたいのか?
僕は勝ちたいのか?
僕は逃げたいのか?
僕はどうしたいんだ?
それは、このゲーム開始以来、何度となく彼の頭の中を去来するテーマでもあった。
構成員が一人減るごとに何かが少しずつクリアになってくるような気がする。
ゲームに勝ったら本当に賞金は貰えるのか?そもそも自分は賞金が欲しいと思っているのか?
この目の前に座っている【代理人】とは一体何者なのか?なぜ彼らは構成員たちにゲームを行わせるのか?
そして最大の謎――10人の構成員を結ぶ共通点とは??
彼の明晰な頭脳は既に、ゲームの本質と全貌をほぼ捉えつつあった。しかし、まだ見えないものもある。
僕は生きたいのか?
僕は死にたいのか?
僕は勝ちたいのか?
僕は逃げたいのか?
僕はどうしたいんだ?
このゲームの結末とは一体…?
「ゲームの結末、か…」
冴子の美しいくちびるが動いて、思考が言葉となる。
「菅野は、もしかしたら…!」
ウェブ上で公開されている、「知る人ぞ知る」伝説のオンライン小説『1/10の悪夢』をここまで読み進めた彼女は、一つの考えに行き当たった。
円谷冴子――。神奈川県警に勤務する刑事である。それも、とびきり美しく、かつ若く、しかも聡明な。
彼女の上司、九条警部補が、若き天才俳優、御厨ひかるの大(!)ファンであることは周知の事実であったが、その縁からか、最近捜査一課内では、このオンライン小説がちょっとしたブームになっていた。もちろん、冴子は勤務時間中にこれを読むことはしない。自宅のパソコンで読んでいるのである。
ここまで読み進める前の時点で、彼女は既に【犯人】の見当がついていたし、それを説明する論理的な根拠もつかんでいた。しかし、この小説には【犯人】のほかに、もう一つ重大な謎がある。それは小説の『中の世界』と『外の世界』の関係である。
経緯は省くが、冴子は最近、御厨ひかるのマネージャー馬波熊子と面識を得、彼女から小説の『外の世界』、つまり現実の世界について聞く機会があった。飯方医師のこと、彼がひかるに語ったこと、ひかるが熊子に語ったこと、等である。
そして冴子は、この小説の『中の世界』と『外の世界』には何らかの繋がりがある、と感じたのだ…。
「千夏の姉」と、その内に存在する「(仮の)千夏」。(仮の)妹は姉に語りかける、「わたしたちは一本の線で繋がっているの」と。これはこの二人の繋がりを指していたようだ…。
しかし、さらに(仮の)妹は「別の意味で、他の人たちともあなたは繋がっているのよ」とも言っている。はたして、これが意味するものは――?
冴子は小説の続きを追った…。
前略
小説、ようやく読み終えました。あなたもこの小説の真相を知りたがっていましたね。そこで今回は、少し謎解きをします。
唯一の生存者__は、はたして【犯人】なのか?それとも勝利した【被害者】なのか?
もし__が【被害者】だとすると、【犯人】は一体誰なのか?
この小説の作者と同姓同名の登場人物とは誰か?
――と、いくつかのポイントがありますが、まずは__からいくことにしましょう。
例えば、菅野が
僕は生きたいのか?
僕は死にたいのか?
僕は…(以下略)…
と自問するシーンがあります。ここからは、彼の「迷い」を垣間見ることができます。また、単純にゲームに勝ちにいくのではなく、他の構成員のレベルアップを図ろうとする――これも、「簡単にはゲームを終わらせたくない」という気持ちの現われでしょう。
特に、千夏が命を賭して皆に見せようとしたカード、そのカードを得られなかった時の動揺、その後しばらくして落ち着きを取り戻した時の彼の言葉――「あんな形でゲームを終わらせるなんてそんなこと許せるはずがない」、これには深い意味があるようです。
この辺から、菅野=__であることが匂いませんか?
少し視点を変えてみましょう。唯一の生存者が__なのですから、__の役割とは、10人の中の__以外の人物を消してゆくことであり、また、うまくそれを導くのが【代理人】山口の役割ということになります(山口とは__の仮の姿です…)。そして、最後は__もまた__によって命を落とすことになるわけです。
と、こう考えると、菅野=__であるという線がさらに強まりますね。また現実の世界、つまり『外の世界』と、小説の『中の世界』との関係も、うっすらと見えてきます。
残る問題は__ですが、実はこれも、最後の最後まで読まずとも、もう少し前の方、そう、大体『第22章』ぐらいまでには、おおよその手掛かりが出てきます。わたしが思うに、最重要ヒントはディスカッション、及びその前後にありそうですよ。
では、今回はこの辺で。続きは次回に明かします。
to熊子様
from冴子
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8月下旬――。
「会期」が明けた翌朝、__はその「会場」をあとにした。彼(彼女)は、唯一の生存者であり、賞金9千万円の獲得者でもあった。
無論、だからといって彼(彼女)が【犯人】とは限らない。会期終了直前に告発し成功した、ということもありうるのだ。
数時間後。「目隠しを外してもよい」と告げる声――。
見慣れた景色、住み慣れた町並みが、__の目に飛び込んできた。3週間の長くて短い悪夢が覚めて、現実の世界へと戻る。
彼(彼女)は夏空を見上げた。
「1/10の悪夢…か…」
(問題編)完
※文中の__は伏せ字を表わすが、すべての__に同一の語が入るとは限らない。また、字数も不斉であり、人名以外も入りうる。
※(解答編)は各自が考えること。
・【犯人】
・生存者
・作者
・『外の世界』との関連
この4点について(ある程度)筋の通った説明がつくはずです。尚、これは一例に過ぎず、他の解釈も成立しうることを予め断っておきます。