宝もの

宝もの


Written by つばさ 渉


 ぼくの宝ものは、自転車のカゴの中にある。
 海でひろった石ころ。赤いゴムボール。
 それから、お父さんに買ってもらったグローブと兄ちゃんに貰ったミニカー。
 いつも宝ものを乗せてぼくは自転車を走らせる。
 友だちの優くんの家に行くときも、必ず一緒だ。
「いいなぁ。まさきの宝ものいっぱいだね」
 優くんはとても羨ましそうな目で、カゴの中を覗き見る。
 ぼくは得意顔で腕組みをしてみせた。
「ぼくの、宝もの入れるカゴがない」
 優くんはしょぼんと俯いた。
 優くんの自転車にはカゴがない。マウンテンバイクだから、カゴが付いてないんだ。
「じゃあさ、ダンボールで作ればいいよ!それを優くんの部屋に置くんだよ」
 ぼくは優くんの左肩をポンとたたいた。
「おぅ。そうしよう」
「出来たら見せてよ」
「うん!」
 優くんは嬉しそうに目を輝かせた。


 1週間が過ぎても、優くんは宝もの箱のことを何も言わなかった。
 まるで忘れてしまったかのように・・・。
 だからぼくは、思いきって聞いてみる事にした。
「ねぇねぇ・・・宝もの箱なんだけど・・・出来た?」
「・・・うん」
 と言った優くんは、口をもごもごさせて、ぼくを見つめた。
 ぼくはなぁに?と心の中で呟きならが、首をかしげた。
 すると優くんは机に視線を落として、
「でもね・・・宝ものまだひとつもないんだ。まさきに宝ものと一緒に見せたいんだ」
 と言った。
「なんだ、そういうことかぁ」
 ぼくはホッとして優くんの机に座った、優くんは笑っているような泣いているような、複雑な表情をした。
「優くん」
「ん?」
「宝ものはすぐには見つからない。宝ものってさ、すぐ見つからないところにあるでしょ?だから宝ものなんだ」
 優くんはそうかぁそうかぁと頷いて、腕組みをした。
「待っててくれる?見つかるまで」
 優くんは腕組みをしたまま、ぼくを見上げた。
 もちろんぼくは頷いた。


 突然、優くんは宝ものを見つけられなくなった。
 小学校3年なのに、優くんは死んだ。
 雨が降った次の日、流れが速い荒川に誤まって足を滑らせた。
 濁流の中で必死にもがいた優くんは、いっぱい荒川の水を飲んで死んだ。


 ぼくは荒川に、宝ものを投げた。
 石ころ、赤いゴムボール、グローブ、ミニカー。
「あ・・・」
 ぼくは荒川の草むらの中に、自転車カゴ程のダンボール箱を見つけた。
 それは雨に濡れてぐにゃりと変形し、中には水や泥や葉っぱが溜まっていた。
 きっと優くんの宝もの箱だ!
 ここで優くんは宝ものを見つけたのかもしれない。
 ぼくは荒川に向って叫んだ。
「優くん!優くん!優くん!」
 ぼくはぼやける視界から逃れようと、何度も何度も右手で目をこすっていた。



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