16人いる!(番組否定)

番組否定

 鈴木友寿がカメラの前で勝利者コメントをしていると、またひとり行動を起こした者がいた。
「お、俺だってカネが必要なんだ」
 鈴木と同じように窓枠に貼りついて、空に向かって身を乗り出した男は、僕の対戦相手、関根智也だった。彼は今しがた鈴木がやってみせたパフォーマンスをなぞるように、自分の悩みや不安をぶちまけた。
「俺も生きていくのに必死なんだよ。去年、両親が死んで天涯孤独の身の上でさ、仕事は派遣契約でキツイし不安定だし、こんなツラだから女にも相手にされない。楽しいことなんて何ひとつないんだ。日記をつけようと思っても書くことが何もない。書こうとしても、今日食べた弁当だとか、夜に見たテレビだとか、そんなさもないことばかり。ただ時間を浪費していくだけの毎日で、日々絶望の連続だよ。だから何度も死のうと思った。でもさ、カネさえあればどうにか生きていけるじゃないか。そう思って、この番組に応募したんだ。カネがあれば確実に人生は変わる。灰色から薔薇色へね。だからどうかお願いします。僕の邪魔をしないでくれ。僕に道を譲ってください」
 なんて心の貧しい男だろう。そうは思っても、口に出さないのがオトナってもんじゃないか。それを臆面もなく全国ネットでよくも吹いたものである。しかも中学生のとった作戦をまんま引用とは芸がなさ過ぎだ。呆れるのを通り越して、哀れにさえ思えてくる。
 タランチュラ後藤が、無言で僕のほうを見ている。ああ、分かってる。ここで発言すべきは僕だ。
「苦しいのはあなただけじゃない」
 窓に歩み寄り、関根に語りかける僕。どうせ飛び降りる気なんてないに決まっている。説得するつもりなどさらさらなかった。
「僕だって8年前に両親を亡くしています。もちろんお金だって必要です。自分だけじゃないんですよ。みんな少しの不安と少しの不幸を背負って生きている。何でもうまくいっている人間なんてそうそういませんよ」
「きっ、君に何が分かる!」
「分かりたくもないですね、あなたの気持ちなんて。僕は自分のことで精一杯だから、他人の心配をしているゆとりなんてありません。まあ確かに、僕はどちらかというと甘い人間なのかもしれない。それで損をしてきたこともたくさんあります。だけど、いいですか、関根さん。僕は海老澤さんほど甘くはない。見ず知らずの男に、みすみすチャンスをくれてやるつもりは毛頭ありません」
「…………」
 関根は返す言葉もなく押し黙ってしまった。そりゃそうだ。どうしたって僕のが正論だろう。
「賞金が欲しかったら戦うべきです。たとえ僕の同情を買うことが出来ても、次も勝ちを譲ってもらえるとは限らないでしょ」
 鈴木君への皮肉に聞こえてしまったかもしれないが、そんなの知ったことか。僕は自分のことで精一杯、その言葉に嘘はないのだから。
「なんなら、僕たちもアシストマッチに挑戦してみますか?」
 僕の提案に関根は震え上がってぶるぶると首を振った。今から死のうという人間が何を怖がっているんだか。まあしかし、あんな恐ろしい光景を見せつけられては断るよりほかないだろう。そう言う僕とて、本音はアシストマッチはご遠慮したいところだ。
「そうだそうだ、いい年したおっさんが甘っちょろいこと言ってんじゃねえよ!」
 と、先刻アシストマッチで醜態を晒した堀巌が僕側に乗っかってくる。
「なあ、あんたもそう思うだろ?」
 堀が隣りにいた和服美人、葵橘アノアに同意を求めた。
「そうですわね……」
 指をちょこんと顎に当て、ほんわかと首を傾げる葵橘。そして意外にきっぱりした口調でこう言った。
「とても見苦しいと思いますわ」
 他の面々も口々に同調する。要するに、鈴木の二番煎じで勝とうなんてムシが良すぎるということだ。鈴木君と海老澤さんは、とんだ茶番だとばかりに顔を見合わせて苦笑い。どうやらギャラリーは概ね僕寄りについているようだ。
「いただけませんね、関根さん。これでは視聴者の同情は得られないですよ」
 MCが駄目押しのように呟くと、結局それ以上の進展は見られなかった。僕の心が揺るがないと見るや、関根はさっさと窓から降りてしまった。まったく現金な猿君だ。
 やがて、タランチュラ後藤が参加者たちに向かって話しかける。
「ええと、現時点で1回戦の半分が決したわけですが、残りの皆さんは必ずしも今日この場所で決着をつける必要はありません。ただし、アシストマッチを希望される場合は、ここでしか対戦できませんので、必要な方は一度こちらにいらしてください。私どもは夕方5時から夜の9時まで毎日ここで待機しておりますので」
「じゃあ、他の時間帯は何してるの?」
 間髪いれず栢山里香がMCに尋ねる。
「そうですね、参加者の皆さんの撮影に行かせてもらおうと考えています。何度も申し上げているとおり、ザ・ギブアップマッチは全行程が終了するまで口外無用としておりますので、お邪魔するときは"お宅のお宝発見"とか"お宅の食卓拝見"などの嘘企画で訪問しますので、口裏合わせの方、よろしくお願いします」
 それもまた厄介なハナシだ。うっかり対応を誤り、家族などにバレたら即刻退場ってわけだから気を抜く暇もない。しかし、どうしてそこまで徹底して隠す必要があるのか。そのあたりがやはり疑問が残る。
「さてと、ほかにアシストマッチをご希望される方はいらっしゃいますか?」
 タランチュラが残った4組を見渡して尋ねると、ひとりの男が律儀に手を挙げた。
「ちょっといいかな?」
 一同が挙手した男に注目する。栢山里香の対戦相手、渡部虎太朗(45歳)だ。


「とてもじゃないが、見ていられない」
 タランチュラ後藤の前に進み出た渡部が堪りかねたように吐露した。
「人の欲望につけこんで戦い合わせ、子供を危険に追いやったり、下らないゲームで大怪我までさせる始末。あなたたちは言うだろう。それは全部、彼らの意思でやったことだと。自分たちには責任はないのだと。ならば聞くが、死にたがっている人間の目の前に毒薬を置くのは罪ではないのか」
 Tシャツにジーンズ、スポーツ刈りの渡部は、蟹眼鏡に三白眼でやや人相が悪かったが、実年齢より遥かに若く見えた。それはきっと皺が少なく、白髪がないせいだろう。
 詰め寄る渡部にタランチュラはクールに反駁する。
「大変立派なお考えですが、幸福を掴むチャンスを与えることの何がいけないのでしょう。また、チャンスがあれば掴みたいと考えることの何がいけないのでしょう」
「これだからテレビの人間は下品でハナシにならない」
「そんなテレビに出るために来たのでしょう、あなたも」
 さすがは『カメラの前ならきっと最強』の男、タランチュラ後藤である。舌戦ならば堂々としたものだ。そんなMCに対峙する渡部の背後から肩をとんとん叩いてくる者がいた。
「もしもし、さっきからやたら偉そうにしてる渡部さん」
 栢山里香だった。彼女が渡部に尋ねる。
「ねえ、あなたの職業教えてくれる?」
「……公務員だが」
「どんな仕事をしているの?」
「いろいろやっているが主に法規関連だよ。分かりやすく言えば条例などを作っている」
「へえ、偉いんだね。でもあんた、世の中全然見えてないよ。空気読めないヤツってよく言われない?」
「なっ……!」
「あ、言われていても、気づかないか。あんた鈍感そうだもんね。ねえみんな、今のこの人の意見に賛成って人、ちょっと手を挙げてみてよ」
 誰も手を挙げなかった。全員が渡部の非賛同者だった。
「聞くまでもなくみんな分かっていると思うけど、ニブチンのあんたのためにわざわざ多数決とってあげたのよ。どお? これでもあんたの方が、世間一般の多数派意見だと思う? あんたは正論を言ってるつもりよね。だから声も大きくなる。自分が正義、自分が正しいと信じて疑わない。そんな人間ばかりが目立ってしまうのは当然じゃない。でもやっぱりそういう人ってのは少数派なんだよね。あんたみたいにキレイ事ばっか並べてる人間ってみんなそう。自分は安全なところに身を置いて、困っている人を見ると何とかしてやろうと声高に叫ぶ。でも出すのは口ばっかで、手もカネも出しやしない。あたしはそういう人間が一番嫌い。あんたは善人ぶって自己満足しているだけ。他人を非難するのは一丁前のくせに決して自己を省みない。まったく虫酸が走るわ。あんたも一度、あのコンプレックスの塊みたいな関根さんの立場になってみたらいいんだ。世界観変わるわよ」
 よく言った、栢山。僕は内心喝采を送っていた。なかなかに胸のすく啖呵の切りようだ。もちろん僕もこの手のタイプが大嫌いだ。
 おそらく渡部は効果的に発言するタイミングを窺っていたに違いない。ずっと苦虫を噛み潰したような顔をして傍観していたが、それだって自分がスポットライトを浴びるための伏線に過ぎない。
「やめたきゃ勝手にやめればいい。黙ってここを立ち去ればいい。それをグダグダ演説ぶって正義感ぶって、何よ、あんた、すごいムカつくんだけど。カメラの前でそんな良いカッコしたいわけ?」
 45歳で白髪も皺もなく、つやつやの肌をしてやがるヤツにロクなのはいない。つまり本当の苦労を知らないということだ。
 バレーボール選手のように長身の栢山が、渡部に詰め寄り、Tシャツの襟首をひねりあげる。
「さあ、今すぐ言いなさいよ。あんたはね、絶対に言わなきゃならないの。御託並べる前にあんたの言うべき台詞、分かってるわよね?」


 言われるままに黙って聞いていた渡部は、やがて呆れたように肩をすくめると吐き捨てるように言った。
「ふん、バカバカしい。こんな戦い、私は喜んで辞退するよ。ギブアップギブアップギブアップ。これで満足かい、お嬢さん」
 いつの間にかICレコーダーを取り出していた栢山が、今のコメントをしっかりRECしていた。
「大満足よ」
 バトルの終結を見届けたタランチュラが腕を振り回しながら鋭く叫ぶ。
「豪腕炸裂ーっ! ウィナー栢山っ! リカちゃん人形と同じ姓名を持つファイティング・ドール栢山里香が、何はともあれ見事緒戦を制しました! さようなら、渡部さん。出口はあちらです。さようなら、渡部さん。今のくだり全てオンエアで使わせてもらいますっ!」
 MCが殊更に盛り上げるが、実は番組的には興ざめなのではないだろうか。そんな制作サイドの懸念が過ぎったが、まあ16人もいればひとりぐらいこういう輩が出てくるものなのかもしれない。
「私はこんな番組、絶対に観ないからな! まったく悪趣味極まりない。ここにいる人間たちのほうがどうかしてるんだ」
 渡部虎太朗、どこまでのKYな男だ。失点を取り返そうと必死なのも分かるが、ここで何を言っても無駄に傷口を広げるだけだ。
「くどいようですが渡部さん、この番組については口外無用でお願いしますよ。栢山さんが勝ち残っている間は1億円の権利は残っているわけですから」
「はっ、何が1億だ。そんなもの嘘に決まってるじゃないか」
 渡部は鬼の首でも取ったかのように声を荒げる。
「"11の約束"とやらを見せられたときからオチは見えていたよ。後藤さん、あなた"約束の中に一つの偽りが含まれている"と言ってたね。実はこれこそが偽りの項目なんだ。正しくは"約束の中に二つの偽りが含まれている"だ。要するに、5億の賞金と1億の賞金に関する部分が偽りってことだよ。これだけ物欲を煽っておきながら、そんなオチとは随分な仕打ちじゃないか」
「それは違うわ」
 両手を腰に当てて胸を反らす栢山が、すぐさまきっぱり否定した。
「あんた、空気が読めない上にバカだったんだね。いい、耳の穴かっぽじってよく聞きなさい。あんたの言うとおりだとすると、11項目の中に偽りが3つ含まれることになっちゃうじゃない。"約束の中に一つも偽りが含まれていない"というなら一応辻褄が合うけど、"約束の中に二つの偽りが含まれている"だと明らかに矛盾しちゃうでしょ」
 まったくそのとおり、反論の余地なしだ。渡部虎太朗、いいところなし。これでは、ただ恥を掻きにやってきたようなものである。偽善のメッキが剥がれた渡部からは、すっかり余裕が消え失せていた。
「はっ、下らない! 全くもって下らないな。カネなど要らんよ。こんな番組、放送前に潰してやる」
「渡部さん、一体何をするおつもりで?」
 MCが尋ねると、渡部が鼻息荒く言い捨てる。
「テレビニッポンにクレームを言うんだよ。あんな非人道的な番組を放送するなんて許さないとね。おまえらテレビの人間にとっちゃ、視聴者は神様なんだろ。神様の言うことは絶対なんだよな」
「全部が全部、神様ではありませんよ。こちらにだって選ぶ権利はある。あなたと違って自己満足のためにやっているわけではないものですからね」
 辛辣な言葉をつき返し、初めて本気っぽい怒りの感情を露わにしているタランチュラ後藤。どうも渡部は彼の地雷を踏んでしまったらしい。あまりに強気姿勢のMCに責任者の清水氏はうろたえるばかりだ。
「そんなデタラメ、あたしが許さないわ」
 栢山は配布されたデジタルビデオカメラを渡部に向けて回している。
「あんた、もし本気でそんなこと考えてるなら、今の一部始終をネットに流しちゃうわよ。渡部虎太朗の行いは正しいか否か、国民のみんなにジャッジしてもらおうじゃないの。渡部は有罪か無罪か。もしも結果が有罪なら――」
 栢山がひらりと住所録を掲げてウインクする。
「罰として、あんたの住所、氏名、電話番号を公開しちゃうから」
「なっ……!」
 渡部は思わぬ方向から反撃を食らい、金魚みたいに口をパクパクさせている。
「おい、栢山――」
 やりすぎだな。そう感じた僕は差し出がましいと思いつつも、ついつい口を挟んでいた。
「そのくらいにしておくんだ。この人にはもう何も出来ないよ」
 明らかに栢山の圧勝だった。誰もがそれを認めていた。


「ちょっと、有馬」
 勝利者インタビューを終えた栢山が、まっさきに僕のところに来て袖をぐいと引っ張った。何やらすごく怒っているらしい。
「さっきはいいところだったのに、どうして水をさしたりしたのよ。渡部のヤツ、あと少しで完全に口が聞けないくらいまで追い込めたのに」
 背中を丸め、こそこそ逃げるように会場を辞する渡部を横目で見ながら、栢山が不平を漏らしている。
「いや、あのくらいで良かったんだよ。これ以上追い詰めたら、あの手のタイプは捨て身の行動に出る可能性が高い」
「だけど――」
「必要以上に人を傷つけるべきじゃないんだ。そうしないと、往々にして取り返しのつかない結果を生むものだからね」
 栢山は自分なりに思い当たる節があるらしく、一応は鞘を収め納得してみせた。
「ふん、分かったわよ。でも、お礼は言わないからね」
「どういたしまして」
「だから礼は言わないっていってるでしょ、このチビ助!」
 栢山は目を三角にしてキーッと歯をむいている。
 栢山里香、口は悪いが根は悪い人間ではない。そう思うと彼女の横柄な態度も厳しい毒舌もあまり気にならなくなっていた。
 さて、栢山も無事勝ち上がり、1回戦は残り3試合となったわけだが、どうやらこれ以上のバトルは起きそうもない様子。
 葵橘アノア(27歳)と渋谷楓(35歳)は互いに一定の距離を保ったままだ。のんびり泰然と構えている葵橘に対して、渋谷は離れた場所から対戦相手の様子をちらちら窺っている。
 渋谷楓、白いニットのワンピースにグレーのスパッツといった出で立ちで、長めのストールを肩に巻いている。丸顔でショートカット、左手の薬指にはリングが光っている。
 一方、小林蓮斗(22歳)と須藤優衣(29歳)は、先刻からふたりでこそこそ密談を交わしている。
 須藤は胸元を強調したノースリーブ、皮のミニスカートにロングブーツ。目のやり場に困る派手な格好に比して面立ちはやや地味だが、まあ美人の部類に入るだろう。そんな須藤が主導権を握り、小林と話しを進めているようにみえるが、肝心のバトルを始める素振りは微塵もない。一体何を話しているのか聞き耳を立ててみようと思ったが、その前に太田太が近づいていくと、ぴたりと会話を中断し、連れだって会場を出て行ってしまった。
 そして、もうひとつの未決着カードが僕、有馬進介と関根智也だ。関根は、"同情ひいちゃうもんね作戦"の不発で居心地が悪くなったのか、僕を避けるようにさっさとお帰りになられてしまった。制限時間はたっぷりあるわけだし、向こうの住所も電話番号も押さえているのだから、今日のところはほっといて構わないだろう。
 そんなこんなで、流れ解散的に三々五々会場をあとにする面々。みんながドアに向かっている中、如月流星がひとり流れに逆らい、タランチュラ後藤の元へ歩み寄っていった。


 如月流星がMCに声を掛ける。
「あの、カメラはもう止まってますよね?」
「何か御用ですか、如月さん」
 どんな用件だろう。興味を持って見ていると、如月さんは顎鬚を掻きながら申し出た。
「いやその、進行の邪魔をしてはいけないと思って控えていたんですが、実は僕、後藤さんのファンなんです。握手してもらえませんか」
 まっすぐ手を差し出す如月に、タランチュラ後藤は面食らっていた。
「や、それは構いませんが」
 タランチュラがそっと手を出すと、如月は両手でその手を握りしめる。
「子供のころ、毎週観ていましたよ鬼クイズ。最終回の最後の問題は今でも忘れません。そもそも僕がクイズに興味を持ったのも、後藤さんの鬼クイズでした。後藤さんは僕のルーツなんです」
 へえ、そうだったんだ。何だか意外な一面を見た気がした。タランチュラは殊更に恐縮していた。
「ありがとうございます。いやしかし、申し訳なかったですね。これ、クイズ番組じゃなくて」
「いえいえ、後藤さんの番組で出演できるってだけで、最高のボーナス、極上のサプライズですよ」
 なるほど、如月さんがタランチュラ後藤の仕切るアシストマッチをすぐ受け入れたのにはそんな理由もあったのか。幸いにしてアシストマッチはクイズで、しかも鬼クイズを模したセットだった。ファンならこんなに嬉しいことはないだろう。
「タランチュラ後藤、復帰作、とても素晴らしい設定だと思います。僕も一生懸命やらせてもらいますので今後ともよろしくお願いします」
「そうですか、それはどうもご丁寧に。あ、でもファンだからって贔屓はしませんよ」
 冗談ぽく笑って言うと、如月は真剣な表情で「もちろんですよ」と返す。
「でも、たぶんアレに気付いているのは、まだ僕だけじゃないですかね。このアドバンテージは有効に活用させていただきますよ」
 おや、アレとは一体なんだろう。"11の約束"の中に含まれる偽りのことだろうか? 僕と同じように怪訝顔のMCに如月さんは声をひそめる。
「この番組を口外してはいけない本来の理由ですよ。今はまだ誰も実感としてないかもしれないけど、後々みんながその意味を知るところとなる。まったく心憎い演出じゃないですか」
 ますます分からない。でも、後々分かるってならまあいいか。
 鬼クイズの話題に花を咲かせているふたりを置いて、そろそろ僕も帰ろうかなと回れ右すると、まだひとりだけ参加者が残っていた。
 葵橘アノアだ。彼女はMCと如月のやりとりを見て、なぜか楽しそうに目を細めていたのだった……。


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