嘘もつき通せば真実なり 〜はいぱ〜ず篇〜

 




【嘘もつき通せば真実なり 〜はいぱ〜ず篇〜】
大胆予想、今年の漢字は「偽」で決まり (*^ー?b
で、おなじみのヒカコラですよ、こんにちは!


「おい、如月。おまえなんで弁当に梅干が入ってるか知ってるか?」
私立海老茶高校2−A教室はうきうきウォッチングな時間帯。
ハイパーブルーこと藍原偏一(あいはらへんいち)が焼きそばパンをかじりながら、机の向こうで日の丸弁当をわっせわっせとかっこんでいるハイパーレッドこと如月春眠(きさらぎしゅんみん)に尋ねる。
弁当から視線を上げた春眠はなんだそんなことかとばかりにつまらなそうに渋面をつくる。
「決まっている。日本国旗を想起させることで愛国心を醸成させるためだろう。それが教育というものだ」
「んなわけねえだろ。いいか如月、梅干にはクエン酸という成分が含まれていてだな、食べ物を腐りにくくさせる効果があるんだよ」
「まあ、そういう一面もあるだろうな」
と、真顔で言ってのける如月春眠。
「たく、おまえはよぉ……」
歩く非常識、ミスター殺 人兵器等々物騒な異名に事欠かない春眠に、鍛え抜かれた鋼の長身をのけぞらせ呆れ果てている偏一。
そんなふたりのもとにまたややこしい男が近づいてくる。
表の顔は美形で華奢な保健委員、裏の顔はドラッグマニアのカッコつけマン、ハイパーグリーンこと蔓樹快矢(つるきかいや)その人である。
快矢はいつものようにのんびりとした調子で会話に参加してきた。
保健の先生でもないくせに必然性もなく着用している白衣のポケットからアメちゃんを取り出してこりっと噛みしめながら快矢は言う。
「腐るっていえばさー、近頃は食べ物の賞味期限の偽装とか多いよねー。赤福に船場吉兆、マクドナルドとかさー」
「ふ、くだらんな。そうそう騒ぐことでもないだろう。昔はカビの生えたアンパンだってカビを除けて平気で食ったものだ。一体いつから日本人はそんなヤワな民族になりさがったんだ」
と、唇をへの字に曲げてやたら古臭い意見をのたまっているのはリーダー春眠である。
「そもそも言われて気づくまで知らずに食ってた輩が文句を言うのはお門違いというものだろう。危機管理能力のない豚どもはいっぺん食中毒くらいなっといたほうがいいんだ」
「いや、まったくぼっちゃんの仰るとおり」
物騒な春眠の発言にコクコク頷きながら同調しているのは、はいぱ〜ずのマスコット的存在、黒猫ゲンブである。
他校の生徒から「ヘンタイの巣窟」と囁かれる海老茶高校では今や誰も「喋る猫」ごときにいちいちツッコミをいれたりはしない。
くわえてスーパーシャイボーイ、ハイパーグレーこと利休由実(りきゅうよしざね)が、うつむきがちにスケッチブックを差し出してくる。

ミートホープや
比内地鶏も同じ


「ふん、クズ肉を使ってんのに牛肉とかブランド肉とか言って騙してたヤツだろ」
スーパー躁鬱男、偏一(ノーマルモード)が由実のコメントを受けて言う。
「結局、それだって騙されてたと知るまでうまいうまいと言いながら食ってたんだ。そんな粘土の舌しか持たない連中が髪を逆立てて怒るのはやはり筋違いと思うがな」
「ま、それなりの値段だったらしいから騙されるほうが悪いっちゃ悪いのかもな。しかし如月よ、おまえやたらと毒舌なのな」
「いやー、でも春眠クンのいうことにも一理あるよねー。そもそも偽という漢字は人の為、人を為すって書くわけだからさー、消費者側も本物を見分ける目を養いなさいってことなんだろうねー」

偽装といえば
耐震強度偽装


レッド春眠、ブルー偏一、グリーン快矢のコメントを受けてスケッチブックで新しいネタをふってくるグレイ由実はあいも変わらず足元ばかり見て絶対に誰とも目を合わせようとしない。
「あったあった、ヒューザーの小嶋社長な。あの嘘泣きのおっさん、ムカついたよな」
「あー、あれはさすがに僕も許せなかったなー。だって建物までは素人の僕たちに偽装を見抜くなんてできっこないからねー」
怒ってるわりには薄っぺらい笑顔を貼りつけたままの快矢くん。それが彼のキャラである。
「それに姉歯建築士のふてぶてしさもなかったよねー」
「つうか、あいつは自分の頭からして偽装だったからな」
ふっさふさの姉歯氏が警察拘留後につるぴか頭で登場したときのインパクトはまことに強烈であった。
だが春眠だけがいぶかしげに首をかしげている。
「解せないな。姉歯はなんのために頭髪を偽装してたんだ。まったく理解に苦しむ。変装は徹底的にやらなければ意味がない。髪型を変えたぐらいじゃすぐに本人とばれるだろうに。どうせやるなら目や輪郭を整形(いじ)った方がよっぽど効果的というものだ」
「あのー春眠クン、別に彼はそういう目的でカツラをつけてるわけじゃないんだよー」
「そうそう、いってみりゃ教頭と一緒だな」
「教頭か……あの男もよくわからん」
腕組みして眉根を寄せる春眠が本校のナンバー2をバッサリ切り捨てた。
アデ●ンス愛用者、篠沢教頭とんだとばっちりである。
「耐震強度偽装事件からもう2年か。月日の経つのは早いもんだな」
しみじみ呟いてパックの牛乳をチューチュー吸っている偏一の横で春眠がさらりとタブーを口にした。
「どういうわけか俺たちは相変わらず2年のままだがな」
「や、それはしょうがないよー。この手の小説の登場人物は年を取らないって相場が決まってるんだからさー」
と、すかさずフォローする快矢。

タラちゃんなんて
半世紀年取ってないし


「ま、それに比べりゃかわいいもんか」
由実のスケッチブックを覗き込む偏一が周囲も気にせずワハハと高笑い。
そんな偽装話、略してギソバナで盛り上がっている4人組の3メートルほど先の窓際で彼らに背を向けて女の子たちと弁当をつついているのはハイパーピンクこと桜吹雪(さくらふぶき)である。
厚焼き玉子をはむはむ噛みながら聞こえないフリを決め込んでいたものの徐々にはらわたが煮えくり返ってくる。
「ぬぁにが偽装よ……」
怒りで手に力が入りすぎ二本の箸がポキリと折れる。
両手を机にバシッと叩きつけると弁当箱が数センチほど宙に浮く。
怒りに任せて仁王立ち、彼らに対峙する吹雪が4人を指差してびしっと言い放つ。
「いい加減にしなさい、このヘンタイどもっ!」
「えっ、俺?」
主に如月春眠を指していたつもりだったが、なぜか脇にいた藍原偏一が自分のことを指されたものと勘違いしちゃったようだ。
「俺が……なんで……ヘンタイ……なんだよ……」
偏一、その場に体育座り。鬱モードが発動しちゃったようだ。
―――ああ、またやってしまった。
吹雪は吹雪で言ったそばから後悔しはじめていた。
―――またこれで2−Aのヘンタイ四天王と同列に見られてしまう。つらい、悲しい、そして痛い。そらもう屋上のフェンスを乗り越えて靴を脱ぎ揃えたくなるほどに、である。
―――ああ、アタシは日本一不幸でかわいい少女や。
と、じゃり●子チエの名台詞を微妙に変えてパクっている彼女も本人の意思はまったく反映されていないとはいえ立派なはいぱ〜ず正規メンバーである。
ええい、言ってしまったものはしょうがないとばかりに勢いに任せてまくしたてる吹雪。
「あんたらに偽装がどうのと語る資格なんてないわよ! 自分たちだって同じじゃない! しっかり偽装してるじゃないよ! それはなんのため? 自分の悪行がばれないようにするためかしら?」
そして、これが動かぬ証拠だとばかりにピンクの覆面を引っ張り出して掲げようとしたそのとき―――
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
気がつくと春眠が視界から消え、吹雪の背後をぴったりマークし、その手で彼女の口と鼻を塞いでいた。
間近で鋭く眼を光らせる春眠が吹雪の耳元で囁く。
「いいか吹雪、嘘もつき通せば真実になる。五体満足で卒業したければ余計なことは口にしないことだ」
―――忘れてた。こいつは、この男は……
吹雪は張子の虎よろしくコクコク頷くばかり。結局彼には逆らえない運命らしい。
そんな折も折、携帯の画面を見つめていた快矢がどこからか得た新情報を伝達する。
「大変だー如月クン。今購買部で賞味期限切れのパック牛乳が売りさばかれているらしいー」
「なにっ、それは一大事」
「あの、さっきと言ってることが矛盾してるんですけど……」
か細い声でつっこみをいれる吹雪に春眠が懇切丁寧に説明してやる。
「賞味期限切れの牛乳を販売すること自体は問題ない。一日くらい過ぎたって腹をくだしたりはしないからな」
「だったらなによ?」
「それを定価で売っていることが大問題なんだ。賞味期限切れは半額だろう、普通」
―――セコっ……
「ふ、ここは特殊工作部の出番だな」
覆面集団はいぱ〜ずの正体は一応シークレットという扱いになっているので、クラスメイトの手前、表の顔である特殊工作部としての出動になる。
無論彼ら5人が"はいぱ〜ずの中の人"であることを知らぬものは校内にはほぼ皆無だったのだが……
「おうし、食後の運動にはちょうどいいぜ。いっちょ暴れてやるか」
50過ぎの購買のおじさん相手になにをどれだけ暴れようというのか。いつの間にか躁モードにシフトしているブルー偏一。
「いいねー、怪我人の手当ては僕に任せてよー」
これは白魔道師を気取った白衣のエセ貴公子、グリーン快矢の発言だ。

なんか
面白そう


いわずと知れたグレー由実のスケッチブック。小学生なみの背丈しかない非力で内気な彼もときどき予知能力を発揮するのでそれなりに有益な人材である。
そして―――
男子4人がいっせいに吹雪を振り返る。
無言のプレッシャー。
「な、なによ、アタシにもついて来いと?」
むなしい抵抗を試みる。
「え、あ、あのぉ、アタシまだお弁当食べ終わってないしぃ、今回は不参加の方向でぇ……」
「よしっ、いくぞ!」
間髪入れずに春眠が吹雪の首根っこを掴んでずるずると引きずっていく。
―――や、やっぱりそうなりますか。
吹雪は目にいっぱいの涙を浮かべながら心の中で叫んでいた。
―――うえーん、アタシのエンジョイ学園ライフは何処〜?
that's all


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