沙粧妙子第1話

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【沙粧妙子−最後の事件−】

第1話 笑わない女
○ 松岡の部屋(夜)
 恋人の理江とともに眠る松岡、電話のベルで叩き起こされる。
 明日からの研修先である警視庁捜査一課の上司、高坂警部からだ。
 松岡、寝ぼけた声で応じる。「なんスか?」
高坂「今日から研修を開始したい」
松岡「はァ?」
高坂「事件だ。目ェ覚ませ、警察官だろッ!」

○ マンションの前
 松岡、現場に到着すると、捜査員たちが完全武装で突入の準備をしている。
 高坂が、部下の矢田、田辺の両刑事を紹介し、松岡に拳銃を渡す。
高坂「よし、踏み込むぞ」
松岡「あの・・・ボクはどうしたら?」
高坂「お前は、隣りのビルへ行け。そこの屋上に先輩がいる」
 上司の命令も聞かない厄介な先輩だ。そう言わんばかりに苦々しく吐き捨てる高坂。

○ 隣りのビルの屋上
 松岡、つまずいて拳銃を落としそうになる。起き上がろうとすると、目の前に銃口が突きつけられている。
沙粧「何してんの、バカ・・・あなた、誰?」
 松岡、ホールドアップで警察手帳を見せる。
松岡「ボク、犯人じゃありませんよ。今日から赴任した松岡です」
沙粧「犯人は知能犯。アンタみたいにマヌケじゃないわ」と銃を下ろす。
 ここでようやく、今、世間を騒がせている連続猟奇殺 人犯に捕まっているという通報があったということを聞かされる松岡。
松岡「それって、被害者の小指の爪を剥ぐってヤツですよね・・・」

○ 谷口のマンション
 犯人加山が谷口を拘束し、潜伏していると思われる部屋。
 高坂たちが銃を構えて突入。
 明かりの消えた部屋に、懐中電灯を向けると加山がロープを構えて待ち構えている。
高坂「押さえろッ!」
 矢田たちが加山を組み敷き、手錠をかけると、加山がいきなり血を吐いた!

○ 隣りのビルの屋上
 ビルの縁に手がかかる。何者かがよじ登ってきたのだ。
 その男、谷口光二。
 小指の生爪が剥がれている。
 沙粧、谷口に銃口を向けて、「とまりなさいッ!」
 それでも、よろよろと近づいてくる谷口に、撃鉄をあげる。
 松岡、慌てて間に入って「やめてください、被害者です!」
 谷口、震えながら松岡の足にしがみつく。「やっと、逃げてきたんだ・・・」

○ マンションの前
 高坂が怒りを露わに沙粧に拳を振り上げる。
高坂「勝手に動くな!」
 そこへ、パトカーに無線が入る。
 それは犯人加山の死亡を伝えるものだった。死因は服毒自殺らしい。
 沙粧がパトカーの中で薬を飲んでいると、松岡の視線に気づく。
沙粧「変な薬じゃないわ・・・それより、あなた、ずっとこっちに研修の希望出してたんでしょ。感謝して。あなたを引き上げたのは私よ」
 そして、自己紹介。「沙粧妙子。よろしく」

○ 沙粧の夢
 プロファイリングチームの一員、親友、高城京子が殺されていた。
 身体を拘束され、口の中には薔薇の花びらが押し込められている。
 同僚の池波がうめくように呟く。「カジウラだ・・・」
 沙粧が遺体に近づくと、そこにはメッセージカードが・・・。
『愛する妙子へ 梶浦』

○ 沙粧の家(朝)
 妹の美代子が沙粧にカップを差し出す。
 陶芸の趣味を生かした美代子お手製のカップである。
沙粧「これ、試作品でしょ。完成品はどこ?」
美代子「え?」
沙粧「だって、どうみてもあたし向きのデザインじゃないし・・・完成品は別の人が持ってるんじゃない。好きな人でもできたの?紹介しなさいよ」
美代子「いやよ、まだ」
沙粧「あなた、男に騙されやすいタイプだから気をつけなさい」
美代子「お姉ちゃんやお母さんのようにはならないわ」
沙粧「・・・・・・」

○ 沙粧の家の前
 車の前で松岡が待っていると、沙粧と美代子が出てくる。
 美代子に松岡を紹介する沙粧。

○ 走る車の中
 沙粧がハンドルを握っている。助手席には松岡。
松岡「研修は6ヶ月ですが、その後も東京の配属を希望しようと思ってます」
沙粧「どうして?」
松岡「東京に恋人がいるんです。結婚前提です」
沙粧「結婚前提・・・警察官らしい言い方ね」
松岡「ボクは警察官ですから」
沙粧「あなたがどうして警察官になったかわかったわ」
松岡「そんなのわかるんですか?」
沙粧「お父さん警察官だったでしょ。そしてあなたはお父さんを尊敬してる」
松岡「(図星)・・・さすが犯 罪心理学のプロですね」

○ 病院
 沙粧たちは谷口に面会し事情聴取する。
 しかし、谷口は「何も覚えてない」の一点張り。
 谷口に不信を募らせる沙粧。
 
○ 谷口の部屋
松岡「犯人はやっぱりあの男(加山)ですよ。谷口光二は、警察に通報しなければ、あやうく6人目の犠牲者になるところだった」
 それでも執拗に現場を調べる沙粧。
松岡「沙粧さん、ずっと気になってたんですけど、どうしてボクの親父が警察官だとわかったんですか?」
 沙粧、「そんなことを気にしてたの?」と呆れ果てる。
沙粧「あなたは重要な人生の決断を人任せにする傾向がある。だから、よ」
松岡「さすが、鋭い」
 しきりと感心する松岡、沙粧は皮肉な笑みを浮かべて言う。
「あなたの履歴書を見たの」
 畜生、ダマされた!とばかりに奥歯を噛みしめる松岡。

○ 谷口のマンション(外)
 沙粧は語る。
「動機が納得できない。異常者には異常者の目的とルールがあるはず」
 そのすぐそばにゴミ収集車。
 収集車に飲み込まれるゴミの中に、妹、美代子のお手製のカップが!
 しかし、沙粧は気づかない。

○ 警視庁捜査一課
 松岡が高坂のデスクに行く。(沙粧はいない)
松岡「犯人がガイシャの爪を剥いだのはどうしてでしょう。5人の被害者に共通点がないのも気になります」
 しかし、高坂は、「犯人は異常者だからさ」と切り捨てる。
松岡「犯人はいつも犯行前に目立つ行動を取ってます。たとえば毎回、5万円分の花束を買っている」
高坂「目撃証言の示す人物と自殺したヤツは人物像が近い40台の男だ。問題ないだろう」
松岡「でも、あいつ、現場に踏み込んだとき、花なんか持ってなかった・・・」
高坂「・・・?」

○ 警視庁科学捜査研究所
 沙粧に薬を渡す池波。
 沙粧は池波に自分の分析した犯人像を話す。
犯人は20代。キレイ好き、初犯ではない。コンタクトレンズをしている。
 池波にはその根拠を当然の如く理解できているが、松岡にはさっぱりだ。
沙粧「爪を剥いだ目的はわからない。でも、何かのメッセージだと思う」
松岡「あのォ、どうしてコンタクト・・・?」
 松岡が割り込ませた低レベルな質問は見事に無視される。
沙粧「近頃、悪夢にうなされる」
池波「梶浦か。アイツのことは忘れろ。それと、あまり薬に頼るな」
松岡「あの・・・コンタクトレンズって・・・」
 沙粧に一睨みされ、スゴスゴ引き下がる松岡。

○ 喫茶室
 池波と松岡がコーヒーを飲んでいる。
池波「君なら妙子とはうまくやっていけそうだ。彼女には君のようなパートナーがあっている」
松岡「そうスかねえ。ところで、カジウラって誰ですか?」
池波、即答はせず、「松岡君、今夜、一杯どう?」
 そこへ沙粧がやってきて、「犯人の身元が割れたわ。奥さんと子供がいた」

○ 加山の家
 加山の妻、宏美と会う沙粧。
宏美「主人は犯人じゃありません」
沙粧「私もそう思います」
 宏美の小指、爪が剥がれている!

○ 同・裏の森
 沙粧、松岡を伴い宏美に事情聴取。
沙粧「その小指は?」
宏美「10年以上前に、プレス機の事故で・・・」
 そして沙粧は、加山のことについて容赦のない質問責め。
 あなたに暴力をふるいましたか?動物虐待癖は?幼女趣味は?男色は?下着集めとか?
 すべてを否定する宏美。
沙粧「では、何か、人と違った趣味はありませんでしたか?」
宏美「・・・バードウォッチングです」
沙粧「鳥は愛せても人間は愛せないと言うこともあります」
 宏美、たまらず激昂する。
「卑怯者!アンタが一番疑ってんじゃないのよッ!同情するふりして近づいて・・・」
 それでも、聴取を続けようとする沙粧を松岡がとめる。
「沙粧さん、やめてください!」
 松岡、沙粧に向き合って言う。
「あなたは、ヒドイ人だ」

○ 加山の家
 捜査員たちが家宅捜査している。
「警部、ありましたッ!」
 矢田刑事が、被害者たちの生爪を発見する。

○ シャンソンバー(夜)
 松岡と池波が呑んでいる。
松岡「どうして沙粧さんは、犯人はキレイ好きだとか、初犯じゃないとか、わかるんですか」
 池波、簡単なことさ、とばかりに説明する。感心する松岡。
池波「これが、犯 罪心理プロファイリングさ」
 そして、松岡は、3年前に存在したプロファイリングチームの存在を知る。沙粧も池波もその一員で、梶浦という男がリーダーであったことも・・・。しかし、それ以上池波は語ろうとしなかった。
池波「そろそろ出ようか」
松岡「あ、そうだ!もうひとつ、コンタクトレンズっていうのは?」
 池波、悪戯っ子のように笑い、「それは妙子に訊いてみるんだね」

○ 松岡のアパート
 夕食を作って、理江が待っている。
理江「おかえり」
 松岡、理江を抱きしめて言う。
「俺さあ、珍しく人のこと嫌いになっちゃいそうなんだ・・・」
 そして、くちびるを重ねるふたり・・・

○ 沙粧の家の前
 こちらでもくちづけを交わすふたつの影。
 美代子と谷口である!
 なんと、沙粧の妹の恋人は谷口だったのだ。
美代子「送ってくれてありがとう」
谷口「おやすみ」
 美代子が玄関に消えると、谷口がおもむろにコンタクトレンズを外す。
 そして、沙粧の部屋のある2階の窓を熱っぽい視線で見上げる・・・。

○ 捜査会議
 加山の家から発見された爪は被害者のものと鑑定され、加山が犯人と断定される。
 捜査資料によると、加山の視力は1.5である。松岡は首を捻る。
 会議が終わり、歩きながら松岡が沙粧に尋ねる。
「どうして犯人はコンタクトレンズをしていると思うんですか?」
 歩きながら説明する沙粧。納得する松岡。
 そこへ、沙粧への電話がはいる。

○ 捜査一課
 沙粧が電話に出ると、ボイスチェンジャーらしきものを使用した声で相手が笑う。
「妙子、エクセレントホテル662号室に行ってみな」

○ ホテル
 駆けつける沙粧と松岡。
 部屋に入ると女が死んでいる。
 加山の妻、加山宏美だ!
 テーブルにはメモが置いてある。
『主人は無実です』
 己の死をもって夫の無実を主張しようとした彼女の姿に心を打たれた松岡が沙粧に詰め寄る。
松岡「アンタのせいでその人は自殺した。アンタが殺したんだよ!」
 そんな松岡に微塵の動揺も見せず、その頬を引っぱたく沙粧。
沙粧「青春ドラマしてないで、さっさと警官らしく動きなさいよ」
 沙粧に促され死体を見ると、そこには首を絞めたれた痕跡が・・・。
沙粧「これは殺 人。自殺じゃない」
 松岡は部屋を飛び出し警察に連絡。
 ひとり残った沙粧が、死体の口の中に薔薇の花びらを発見する。
沙粧「あァァ・・・そんなァ・・・」
 沙粧の心が大きく揺さぶられる。
 泣きながらピンセットで、花びらを一枚一枚拾い上げていく沙粧。
 そして、それを自分の鞄の中にしまう。
 戻ってきた松岡が見咎める。
「沙粧さん、それ、証拠隠匿じゃないですか!」
 沙粧、一歩も引かず松岡を睨みつけて、「黙ってなさい」


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