沙粧妙子第2話

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【沙粧妙子−最後の事件−】

第2話 愛のマニュアル
○ ホテルの外
 パトカーが大挙して到着。
 加山宏美の死体が運び出される。
矢田「自殺に見せかけた他殺ですかね」
高坂「メモを筆跡鑑定してみねえと分からんがな」
 一方、パトカーの中で動揺を隠せないでいる沙粧に松岡が声をかける。
松岡「被害者の口から取り出したもの・・・あの薔薇の花びら、どうするつもりですか?」
沙粧「私は私なりの捜査をする。だから黙ってなさい!」

○ 捜査一課
 メモは加山宏美の筆跡と一致、顔見知りの犯行、加山宏美の男性関係に何かあるかもしれないと見解を示す高坂たちは、他に何か証拠はないかと苛立っている。
 薔薇の花びらを黙っていた松岡は青い顔。
 今までの連続殺 人の犯人は加山。そして宏美が殺した犯人は別にいる。
 そういう方向で捜査をはじめようとした高坂に沙粧が反論する。
 今までの犯行も加山宏美殺しも同一犯。犯人は谷口光二である、と。
高坂「バカな!花を買っていた男は40代、遺書の筆跡は加山宏美本人のもの。それでどうして谷口が犯人になる?」
沙粧「じゃあ、爪はどう説明します?」
高坂「爪がどうした?」
沙粧「5人の被害者の検死報告からみて、犯人は被害者を殺 害した後に、爪を剥いでいる。谷口は殺されずに逃げてきた。なのに、なぜか爪はちゃんと剥がされていた」
高坂「はっ!谷口は自分で自分の爪を剥いだっていうのか?」
沙粧「ありえます。平気で5、6人も殺す人間ならできるかもしれない」
 可能性を一つ一つ潰し、じっくり証拠を固めていく地道で堅実な捜査を信条とする古いタイプの刑事、高坂は沙粧のやり方がすこぶる面白くない。彼はついにキレてしまった。
高坂「犯 罪心理プロファイリングか。横文字で言えば格好は良いが、わかりやすく言えば単なる仮説なんだ。想像だったら誰にだってできるんだよ!

○ 警視庁・廊下
 れいのごとく、スタンドプレーに走ろうとする沙粧を松岡が追いかけてくる。
松岡「待ってください、沙粧さん」
沙粧「私と動くのがいやなら無理しなくていいのよ」
松岡、ムスッとして「これも仕事ですから・・・谷口、ホントに犯人なんすか?」
沙粧、首を捻り「どうかな?」

○ ファーストフードショップ
 沙粧の妹、美代子と谷口がカウンター席で談笑している。
 愛する谷口の前では何でも話せる美代子は、父の蒸発、母の病死、10歳の頃から姉とふたり暮らしであることなどの身の上話をする。
美代子「私たちの両親、仲悪かったから、お姉ちゃんも男性不信なところがあって、前にも恋人がいたみたいなんだけどうまくいかなかったみたいで・・・」
谷口「じゃあ、妹に恋人ができたって知ったら大変だね」
美代子「もう知ってるよ。お姉ちゃん、私と違ってスゴク頭いいから」
谷口「興味あるな。どんなお姉さんなの?」
美代子「優しいけれど、ちょっと怖いところがある」
谷口「あまりお姉さんに劣等感持たないほうがいいよ。人間なんてさ、どうせ死んだらみんな一緒なんだから
 ゾクリと怯える美代子に、微笑む谷口がカメラのファインダーを美代子に向ける。
 ぎこちなく微笑む美代子。
 そして、シャッター音。

○ 松岡のアパート
 夕飯を食べている松岡と理江。浮かない顔の松岡。
理江「どうしたの、優起夫。沙粧さんとうまくいってないの?」
松岡「最悪だよ。ハッキリ言ってもうイヤ!」
 理江、松岡を気遣って言う。「あまり深く考え込まないほうがいいよ。その人と一生付き合うってわけじゃないんだし」

○ 沙粧の部屋(沙粧家2階)
 明かりを消した部屋でビデオを見ている沙粧。
 ビデオには梶浦圭吾が映っている。
 梶浦は医師にカウンセリングを受けていたが、逆に医師を言葉でやりこめている。
 それを見て涙ぐむ沙粧。
 そこへ、玄関のドアが開く音。

○ 沙粧家・玄関
 美代子が帰ってきたのを出迎える沙粧。
沙粧「どこ行ってたの、こんな遅くまで?」
美代子「友達と会ってた」
沙粧、美代子のルージュの崩れに注目し、「男ね?信用できる相手なの?あんた、騙されやすいタイプだから気をつけなさい」
 シスターコンプレックスの美代子は、カチンとくる。
美代子「私、もう20歳よ。自分のことは自分でできるわ」
沙粧「年なんて関係ないの。あなたがしっかりしないから・・・」
美代子「自分だって!自分だって何年も付き合って結局ダメになったくせに!」
 言い返そうとする沙粧を振り切り、逃げるように階段を上っていく美代子。

○ 科学捜査研究所(次の日)
 悩みに悩んだ末、松岡は沙粧が隠した薔薇の花びらの件を池波に話す。
松岡「池波さん、薔薇の花びらって何ですか?梶浦と何か関係あるんですか?」
 池波、言い渋る。
池波「うん、わかった。あとで話そうよ。後でこっちから連絡するから」

○ ゲームセンター
 一方、沙粧は谷口の先輩に話を聞きに来ていた。
 この男は、犯人に監禁された谷口が「警察を呼んでくれ」と電話で助けを求めてきた相手である。
 男は、ゲームに夢中で沙粧のほうを一度も見ようとしない。
 男は眩しそうに言う。
 谷口は変わった。2年前を境にして別人のようになった。ゲーム好きの根暗青年が、急に人付き合いをするようになり、体を鍛え、渋谷で女の子をナンパし、これがよく引っかかって・・・やれはできるってことなのかな・・・と。

○ 車の中
 運転席で待っている松岡。
 そこへ、助手席に乗り込んでくる沙粧。
沙粧「あなた、何してたの?」
松岡「何って・・・捜査ですよ」
沙粧「だったら、そんな後ろめたそうな目で見ないで」
 薔薇の花びらのことは黙っていろと言われたにもかかわらず、池波に話してしまった松岡としては後ろめたいのは当然である。彼はそれだけ真っ直ぐでわかりやすい男ということなのだ。
沙粧「で、何かわかったの?」
松岡「谷口には親しい友人はいなかったようです。2年前から実家にも大学にも顔を出していないそうです」
 沙粧、眉間に皺を寄せる
沙粧「2年・・・?」

○ 谷口のマンションの前
 車の中で谷口の帰りを待つ沙粧と松岡。
松岡「谷口、犯人スか?」
沙粧「ええ・・・」と、今度は断言してみせる。
松岡「沙粧さん、花びらの意味、そろそろボクにも教えてくださいよ」
沙粧「私もそれが知りたいのよ」
松岡「・・・?」

○ 谷口のマンション(エレベーターホール)
 谷口が帰ってきたところを呼びとめる沙粧。
 谷口の表情は、驚くほどクールでふてぶてしい。とにかく以前とはまったく違う印象である。
沙粧「もうショックから立ち直ったみたいね」
谷口「ああ・・・」
 沙粧の背後に現れる松岡を見た谷口。
谷口「なんだ、あんたひとりで来たんじゃないんだ」
沙粧「私があなたを誘いに来たとでも思った?」
谷口「あんたにそんな勇気ないだろ」
沙粧「勇気って何?」
谷口、薄く笑い「あんた、男とうまくいったことある?」

○ 谷口の部屋
 谷口に続いて、沙粧、松岡が部屋に入る。
 松岡、谷口のメガネを発見。かなり度が強そうだ。これで、コンタクトレンズのウラが取れる。
沙粧「あなた、2年前から人格が変わった。何がキッカケでそんなふうに変われたの?」
谷口「俺、気づいたんだ・・・人間って結構単純でさ、やりかたさえ知ってれば、こっちの好きなように操るのって案外カンタンなんだ・・・女なんか特にそうだよ。マニュアルに当てはめてくと結構思い通りになるんだ」
沙粧「そのマニュアルって、どこで手に入れたの?」
谷口「さあね」
沙粧「答えなさい。人との接し方、体の鍛え方、女の子のナンパの仕方、人の騙し方・・・人の殺し方!
 静かに笑う谷口。沙粧はそんな彼の首根っこを掴む。
沙粧「どうして花びら口の中に入れたの?」
谷口「なんのことォ?」
 沙粧、谷口の首を絞めながら、「人の首絞めて殺すのってそんなに楽しい?」
 クククと不敵に笑う谷口に怒りのボルテージが上がる沙粧、首にかけた指に力がこもる。
松岡「やめてください、沙粧さん!」
 松岡に叱責され、素直に手をほどく沙粧。
沙粧「やっぱり、隣りのビルの屋上で、あなたを殺しておけばよかった。そうすれば、犠牲者が増えずにすんだ」
谷口「やっぱりなァ。あんたもこっちの世界に来れるんだよ。ガマンしてないで早くラクになりなよ・・・」
 沙粧、ギラつく目で谷口を睨む。
沙粧「白状したわね。それは自供ととって構わないわね」
谷口「妙子・・・」
沙粧「あなたにそんなふうに呼ばれる覚えはないわ」
谷口「見せたいものがあるんだ」
 谷口が肌身離さず身に付けていたペンダント。その先についたロケットの中の写真はなんと沙粧!
 絶句する沙粧。
谷口「ボクのキモチ、わかってくれよ、妙子ォ」
 沙粧、完全に取り乱し銃を抜く。しかし谷口、全く動じない。怯えるでもなく、逃げるでもなく・・・。
沙粧「ふざけないで。人の殺し方、誰に教えてもらったの!言いなさい!」
谷口「知ってんだろォ?」
沙粧「このッ・・・」
 今にも発砲しそうな様子の沙粧に、松岡が強引に止めに入る。
松岡「やめてください!彼を拘束する権利はボクらにはないんです!」
沙粧「離しなさい、松岡!」
 もみあうふたりの刑事を尻目に悠然と部屋を出て行く谷口・・・。

○ 捜査一課
 またしてもスタンドプレーか!とばかりに沙粧の勝手な捜査をガミガミ責めたてる高坂。
高坂「谷口は憐れな被害者だぞ。訴えられでもしたらどうするつもりだ!」
 谷口の部屋から押収してきた物の中に被害者たちの詳細なデータが書き綴られたファイルを発見する矢田刑事が高坂に報告する。
矢田「警部、これ見てください。こりゃあ、谷口、ホンボシですよ」
沙粧「谷口はもうあの部屋には戻らないわ。それよりまた何かするかもしれない」
 高坂、苦々しく「指名手配の準備だな」

○ 警視庁・廊下
 大またに歩く高坂警部を呼びとめる松岡。
松岡「警部、お願いがあります」
 立ち止まり、松岡の顔をじっと睨む高坂。
高坂「ダメだ」
松岡「ボク、まだ何も言ってませんよ」
高坂「沙粧とのコンビは続けてもらう」
 松岡、びっくりして「どうしてわかるんですか?」
高坂「ンなもん、誰だってわかるんだよ」
松岡「ボク、あの人には、もうついていけません」
高坂「だったら今すぐ岩手に帰れ!お前で何人目だと思ってやがる、バカヤロウ!」

○ スタンドバー(夜)
 カウンターにひとり座っている谷口。
 その隣りに見知らぬ女が座る。
 派手めの女、誘うような視線が谷口を捉える。
 女はタバコを銜えて谷口に微笑みかけた。
女「火、ある?」
 谷口、沈んだ瞳でマッチを擦り、タバコに火を灯す。
 谷口が女を真っ直ぐ見つめて囁く。
谷口「天国、見せてあげようか」
 女、妖艶に笑う。

○ 夜の街
 スタンドバーをひとりで出て行く谷口。
 歩きながら、路上で売っている風船をひとつ買う。
 しゃがみこんで、風船のしばり口からヘリウムを吸い込む谷口。
 妙ちくりんな声でゲラゲラ笑う。
谷口「好きになったら命懸けー!あなたを追いかけどこまでもー!」
 駆け出す谷口、全速力!

○ 科学捜査研究所(夜)
 沙粧、松岡、池波、いつもの3人が事件を検証する。
 池波は興味深げに谷口のファイルを読んでいる。
池波「女を口説くための緻密なマニュアルだ」
沙粧「谷口は2年前から性格を変えていった。それまではゲームの世界で遊んでいたのが、現実の世界で実践するようになっていった」
池波「なるほど・・・」
 谷口が残していったペンダントを見る池波。沙粧の写真が入っているこのペンダントもまた高坂警部には内緒にさせられている松岡はやはり面白くない。
池波「妙子、どうして薔薇の花びらのこと、ボクに教えてくれなかったんだ」
沙粧「確信が持てなかった・・・」
池波「いや、確信を持ちたくなかったと言った方が正しいだろう。梶浦の調査、もう一度、公安に掛け合ってみよう」
沙粧「私のカンではあの人、私ともう一度・・・」
池波「バカな想像するんじゃない!」
 弱気な沙粧を叱咤する池波。
沙粧「この前、見直したのよ、梶浦のビデオ・・・何も感じなかった。怒りも悲しみも・・・」
池波「それは妙子が快方に向かっているってことさ」
 2人だけで話し、あいも変わらず蚊帳の外の松岡が堪らず声をあげた。
松岡「いい加減ボクにも教えてくださいよ。梶浦って何者ですか?昔、沙粧さんたちがいたプロファイリングチームのリーダー。ただそれだけってことじゃないでしょう」
沙粧「あなたに教える必要はないわ!」
 松岡、突き放すような言い草の沙粧に完全に頭に来る。
松岡「なんでなんでスか?花びらにしたって、そのペンダントにしたって、証拠品として捜査一課に提出すべきです。ボクはもうあなたにはついていけません!」
 沙粧、力なく俯く「・・・だから、無理しなくていいって言ったじゃない」
 沙粧と松岡、二人の間に亀裂が生まれる。
 見かねた池波が、意を決して告白する。
池波「わかった。言うよ、松岡君。梶浦はね、妙子の恋人だったんだ。そして、あいつは僕たちプロファイリングチームのメンバーを殺したんだ
松岡「えっ!でも、どうして・・・」
池波「梶浦は犯 罪者たちと会見していくうちに気付いてしまったんだ。犯 罪が楽しくてしかたのないことだってね」
 松岡、驚愕の事実に言葉を失う。しかし、まだ驚くべき事実があった。
池波「プロファイリングチームは解散。梶浦は施設に隔離された。しかし、3人殺して施設を脱走。それが3年前。今も行方不明さ」
 なんという壮絶な因果だろう。松岡は真実を知ってしまったことに軽い後悔を覚える。
池波「松岡君は今までのパートナーと違う。妙子をきっと助けてくれる人だ。ボクには分かる、ボクはね、人を見る目があるんだ」
 松岡、困惑しつつ「勝手に決めないでくださいよ・・・」
 そこへ、捜査一課の若手刑事、田辺がやってくる。
田辺「六本木スタンドバーで若い女の絞殺死体が発見されました。小指の爪、剥がれてたそうです」

○ スタンドバー
 谷口にタバコの火をつけてもらっていた女がトイレで死んでいる。
 店の客の大半が外国人で、しかも麻薬まで見つかって、警察は大忙し。高坂、矢田、田辺、松岡、それぞれが、早口でまくし立てる英語に辟易しながら事情聴取を続けている。

○ 近くの公園
 谷口に殺された死体を見てきた沙粧は、落ちこうと薬を飲み込む。
 すると、携帯電話が鳴り出した。
 妹、美代子からだ。
 美代子曰く、カレから電話があって、今から家に来るという。相談したいことがあって、お姉さんを交えて3人で話したいとのこと。
 沙粧は、うんざりだった。冗談じゃない、今はそれどころじゃ・・・
 そして、沙粧はハタと気付く。
 このタイミングの良さ。もしかして・・・
 沙粧が恐る恐る美代子に尋ねた。
沙粧「美代子、あなた、そのカレに渋谷でナンパされたんじゃない?」
美代子「・・・うん」
沙粧「カレ、名前なんていうの?」
美代子「カジウラ君よ・・・お姉ちゃん、どうかしたの」
 うろたえる沙粧、しかし妹には悟られてはいけない。
沙粧「分かった。すぐ戻るから。コーヒーでも淹れて、待ってて」

○ 沙粧家
 玄関で谷口を迎える美代子。
美代子「上がって。お姉ちゃん、もうすぐ帰ってくるから」
谷口「うん」
 彼の手にはケーキの箱・・・。

○ 車
 パトランプを鳴らしつつ車を飛ばす沙粧。
 ひとり目指す目的地は自分の家。


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