沙粧妙子第3話

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【沙粧妙子−最後の事件−】

第3話 青春の殺 人者の涙
○ 沙粧の家
 車を路駐した沙粧が、銃を構え、玄関の前でヒールを脱ぐ。
 いつ出てきても対処できるよう慎重にドアを開ける。
 リビングまでたどり着くと、美代子がひとりテーブルについていた。
美代子「お帰り」
 安心した沙粧は銃をベルトに差し込む。
 とたん、美代子の後ろに隠れていた谷口が現れ、ナイフを美代子の首に突きつける。
 しまったとばかりに銃に手をかける沙粧。
 しかし、今、銃を抜いても、その間に妹は刺されてしまう。
 沙粧はそのまま手を戻す。
谷口「なんだ、ウケると思ったのに」
美代子「ゴメンね、彼、お姉ちゃん笑わせるんだって」
谷口「ケーキ買ってきたんですよ。ボク切りますから」
 テーブルの上にケーキの箱。
 谷口は美代子の隣りに座る。
 ケーキを切るという口実で、ナイフは手に持ったまま。
 手も足も出せない沙粧はおとなしく向かいの席につく。
 ひとり何も知らない美代子は無邪気にお互いを紹介する。
 美代子にとって二人は、初対面の姉と恋人。
 しかしその実は、既に何度も会っている刑事と犯人。
谷口「はじめまして」
沙粧「よろしく」
 沙粧は美代子を谷口から引き離そうとする。
沙粧「美代子、コーヒー淹れて」
 頷いて立ち上がる美代子の腕を谷口が掴む。
谷口「ここにいて」
美代子「でも・・・」
 沙粧をじっと見つめる谷口。
 その目は雄弁に語っている。
 妙なマネしたら、どうなるかわかってるだろう。ボクはあなたと話しをするためにここへきたんだ。と・・・。
 沙粧、根負けして、「いいわ。私が淹れる」
 沙粧がコーヒーを淹れている間も油断なく彼女の様子を窺っている谷口。その腕は恋人らしく美代子の肩に回されているが、その手には冷たいナイフが握られている。
 やがて、コーヒーを配りおえ、テーブルを囲む3人。重苦しい空気が流れる。
美代子「そうだ、お姉ちゃんに相談したいことがあるって言ってたよね」
 美代子に水を向けられ、口を開く谷口。
谷口「実はボク、追われてるんです」
沙粧「誰に?」
谷口「悪い人たちに」
沙粧「どんな悪い人たち?」
谷口「命まで狙われたり、銃で脅されたり」
 それは、暗に沙粧のことを指している。
沙粧「だったら、警察に行きなさい。それがあなたにとって一番いいことよ」
谷口「それはできません」
沙粧「どうして?」
谷口「警察はボクを理解できない」
沙粧「誰なら理解できるの?」
谷口「妙子さん、あなたしかいない。そう、ある人が教えてくれた」
 2人の会話に疑問を抱き始める美代子。
美代子「あのさあ、ふたりで何話してんの?まるでお互い、前から知ってるみたいね・・・」
 谷口、構わず沙粧だけを見据えて続ける。
谷口「でも、その人言ってた。あなたをこっちの世界に引きずりこむ方法がひとつだけあるって・・・妙子が一番大切なものを失えばいいんだ、それも目の前で!
 ようやく身の危険を感じた美代子が逃げようと席を立つが、谷口に捕まってしまう。
 パニくる美代子。
美代子「お姉ちゃん!」
沙粧「美代子を助けてくれるんだったら、私、なんでもあなたの言うことをきくわ」
谷口「心配ないって、人間なんて死んだらみんな一緒だ。ちょっとチクっとするだけだって」
 美代子、目の前のナイフに恐怖で声も出ない。
 その時、携帯電話のベルが鳴る。松岡からだ。
 一瞬、谷口の気が逸れた!
 沙粧はそれを見逃さない。
 コーヒーを谷口の顔にぶっかける。
谷口「アヂッ!」
 すかさず、ショルダーバッグも投げつける沙粧。
 美代子、隙をついて谷口の腕から逃れる。
 銃を向ける沙粧。
 テーブルをひっくり返す谷口。
 銃声。
 当たらない!
 形勢不利と見た谷口、窓ガラスに体当たり、路上に飛び出す。
 飛び出した谷口の前に、ヘッドライト。
 そして、ブレーキ音。
 一方、沙粧は美代子に「大丈夫。心配ない」と肩を抱く。
 すると、外から車の排気音が聞こえてくる。
 谷口、車にひき逃げされた?それとも、車を奪って逃走したのか?
 
○ 沙粧の家(外)
 外に出ると、車が走り去っていくところだった。
 あたりには誰もいない。
 追わなければ、見失ってしまう!
 沙粧は路上駐車していた自分の車に乗り込みキーをまわす。
 そこへ、いきなり後ろから手が伸びてきて、沙粧の首を乱暴に掴む。
 谷口だ!
 谷口は後部座席に隠れていたのだ。
谷口「よく確かめないとダメだよ」
 得意げに忠告する谷口。
 沙粧の細い首筋にかかった谷口の指に力がこもる。
 沙粧、気が遠くなる中で、ギアをバックにいれ、アクセルを踏み込む。
谷口「うおっ!」
 すかさず急ブレーキ。
 慣性の法則に従い、後ろの座席から前の座席に投げ出される谷口。
 沙粧はすばやく銃を拾い、谷口のこめかみに銃口を押し当てる。
谷口「さすがだな、妙子」
沙粧「あなたに呼び捨てにされる覚えはないわ」
谷口「呼び捨てにできるのは梶浦だけ?」
沙粧「どうして梶浦を知ってるの?答えなさい!」
 しかし、谷口はさあねと惚けてみせる。追い詰められてもなお、余裕の笑みさえ浮かべ、饒舌に語る谷口。
 加山の弱みを握り、彼を共犯者に仕立て上げ、最後は自殺に見せかけ殺 害。罪もない人々を殺 害した動機、それは沙粧を愛するがゆえ。谷口は沙粧にだけ気づいて欲しくて、薔薇の花びらを口の中に入れたのだ。
沙粧「あなた、私が好きだなんて誤解なの。梶浦に愛情刷り込まれただけ」
谷口「どんな形のスタートでも愛情は愛情なんだ。キスしよう」
 そして、谷口のヘッドバットが沙粧の額に炸裂。気絶する沙粧にいとおしげに頬ずりする谷口。
 そこへ近づくパトランプの音。弾かれたように逃げ出す谷口。

○ 都内某ホテル
 翌日。谷口はようとして行方知れず。警察の包囲網、検問を嘲笑うかのように・・・。
 沙粧は美代子とともにホテルに身を隠す。

○ 捜査一課
 高坂と松岡が会議室にふたりきり。
松岡「ボクはもう沙粧さんを信じられません」
高坂「まあ、座れ・・・お前、池波からナニ聞いた?」
松岡「は?」
高坂「カジウラって何だ?」

○ 走る車
 ハンドルを握る松岡とひたいのバンソウコウが痛々しい助手席の沙粧。
沙粧「昨日、電話かけてくれたのあなたでしょ。ありがとう、おかげで助かった」
 珍しく素直な沙粧に松岡は不思議そうな顔。
松岡「どうしたんスか」
 沙粧、憮然として「お礼言ってんでしょ」
 松岡、気まずそうに「・・・妹さん、大丈夫ですか?」
沙粧「あの子は大丈夫。立ち直れるから」

○ 谷口の実家
 4年前から空家。クリスチャンの父親は6年前死亡。15歳年上の姉がいる。母親は谷口が生まれて3年後に離婚などの情報を松岡が沙粧に報告する。
 谷口の部屋で星占いのスクラップを見つける。さそり座とふたご座のものが6年分。谷口はさそり座。では、ふたご座は・・・?
沙粧「ふたご座は、谷口の好きだった人でしょうね」
松岡「沙粧さん、何座ですか?」
沙粧「獅子座」
 松岡、言いにくそうに「ボク獅子座とは相性悪いみたいです」
 沙粧、きっぱりと「あってるじゃない」
 そこでふと思いつく沙粧「お姉さん、結婚してるのよね」

○ 科学捜査研究所
 池波のもとを訪れた高坂が梶浦のファイルを見ている。
高坂「梶浦は今度の事件に関係があるのか?言っとくが、こいつが尻尾出したら捕まえるぞ」
池波「それは難しいでしょう。梶浦は天才ですから。高坂さん、このことが公になるのが好ましくないのは分かりますよね?警察が天才的犯 罪者を育成したなんて醜聞、オモテには出したくはない。ボクはね、プロファイリングチームを再会させようと思ってるんですよ
 高坂、皮肉たっぷりに「今度はお前がリーダーか」
 池波、落ち着き払って「ボクは梶浦のようにはなりません」

○ 谷口の姉の家(玄関)
 突然の刑事の訪問に露骨に困った顔をする谷口の姉、早苗。
 もう、あの子とは他人だとでも言わんばかりだ。その証拠に沙粧たちを玄関から先へあげようとしない。
 それでも、しつこく食い下がる沙粧。
沙粧「あなた、ふたご座でしょう」
早苗「ええ」
沙粧「あなたもお父さんと同じくクリスチャン?」
早苗「いえ、違いますわ」
沙粧「どうして星占い6年もつけるほど、谷口はあなたにこだわったのでしょう?」
早苗「さあ・・・少なくともあたしにはあの子のそういうところガマンできませんでした。それに、もう向こうも私のこと忘れてるはずです。だって、2年前に手紙が来たんです。『さようなら。ボクは新しい人を見つけた。ボクはその人を愛するために努力する』って、そう書いてありましたわ」

○ 公園(夜)
 ベンチで休む松岡のもとに夜食をもってやってくる理江。
 手作り弁当をおいしそうに食べる松岡。
松岡「こうしてると普通の世界に戻ってきたって感じがするなあ」
 暖かく微笑む理江。
松岡「ちゃんとお父さんとお母さんにご挨拶に行かないとな」
理江「いいよ。無理しなくて」
松岡「無理してないよ。早く安心したいもんな」

○ 科学捜査研究所
 沙粧と池波が話している。松岡は少し離れたところで煙草をふかしながら二人の会話に耳を傾けている。
池波「どうして谷口はそこまで姉に固執したんだろう。まあ、いずれにせよ、谷口は2年前、姉への想いを妙子にすりかえた。そして妙子の気持ちを手に入れるために2年間いろんなことをやってきた」
沙粧「殺 人も・・・」
池波「やっぱり梶浦が絡んでいるのかな」
沙粧「やっと認めたわね、池波さん」
池波「谷口の姉に対する執着は相当なものだ。それはやはりアレしかない。年が離れているってだけじゃ理由として弱いからね」
 松岡、身を乗り出してきて、「アレってなんですか?」
沙粧「母親よ」
池波「谷口光二は姉として育てられた谷口早苗が15歳のときに生んだ子供だよ。早苗さんは堕ろしたかったんだろうが、クリスチャンの父親はそれを赦さなかった。不本意に生んだ息子を敬遠する母。その母の気持ちを振り向かせようとひたむきになる谷口光二」
沙粧「梶浦は、谷口光二の歪んだ愛情につけ込んで、彼を犯 罪者に仕立てあげた」
 沙粧は苦しげにそう言った。自分の為に罪もない人たちが殺されるなんて・・・。
沙粧「梶浦、一体どこにいるの?なぜこんなことをするの?私の前に出てきてくれれば一緒に死んであげたっていいのに・・・」
池波「妙子、バカなこと言うんじゃない!」
 叱咤する池波のもとに電話がかかってくる。
 電話の相手は矢田刑事だった。矢田曰く、「今、梶浦の母親に会っているのだが、沙粧の話しをしたら是非会いたいと本人は言っている」とのことだった。

○老人ホーム
 痴呆気味の梶浦の母、信子は焦点の定まらない目で呆けたようにしていたが、沙粧が現れたとたん、いきなり沙粧にすがりついてきた。
信子「あたし、ずっと隠してました。梶浦は死んだんです。ある日ふらりと家に帰ってきて、その日のうちに首を吊って死んでしまったんです。もう1年も前に・・・」
 沙粧、努めて冷静な口調で尋ねる。「どうして黙っていたんです?」
信子「だって、あの子のこと、これ以上世間様の目に晒したくなかったから・・・今、あの子が人殺しをしてると思われているんでしょう?でも、そんなハズはないんです。死んだ息子が人を殺めるわけがない」
 沙粧、信子の肩を揺すぶって、「嘘でしょう?」
 信子、首を強く横に振り、「死んだ」
沙粧「嘘でしょ?」信子「死んだ」
沙粧「嘘でしょ?」信子「死んだ」 
沙粧「嘘でしょ?」信子「死んだ」
沙粧「死体は?」信子「死んだ」
沙粧「死体はどこにあるの!」

○ 梶浦家〜裏山
 狂乱の沙粧、空家状態の梶浦家からスコップを持ち出し裏庭へ。鑑識に任せましょう、と進言する松岡の言葉は耳に入っていない。
沙粧「死体なんて埋まってないわよ。梶浦は絶対に死んでなんかいない!」
 やがて、土を盛った跡を見つけ、一心不乱にスコップをふるう沙粧。
沙粧「あいつは自殺するような人間じゃないわ!!」
松岡「沙粧さん、もうやめましょう」
 とめる松岡をふりほどき掘り返す沙粧。
 ほどなく白骨化した右手が土の中から現れる。
 それを見た沙粧、ふらりとよろめく。
 後ろから支える松岡が呆然と呟く。
松岡「やっぱり梶浦は死んでた。じゃあ、谷口光二を操っていたのは誰なんだ?」

○ 美代子の隠れているホテル(夜)
 誰もいない廊下をひとり歩いてくる男。
 男は両手一杯に薔薇の花束を抱えている。
 花束に埋もれた男の顔には不敵な笑みが張りついてる。
 男の顔・・・・・・谷口光二!

○ 同・ホテル(フロント)
 ホテルに戻ってきた沙粧と松岡。
 なにやら騒がしい。只ならぬ事態。ざわめき。
 胸騒ぎの沙粧が思わず口にした名前、「美代子!」

○ 同・ホテル(屋外プール)
 人だかりをかき分けプールサイドへ進む沙粧たち。
 沙粧の脳裏には嫌なイメージばかりが浮かぶ。
 夜のプールサイド。
 その水面には大量の薔薇の花びらが散っている。
 沙粧、プールに向かって叫ぶ「美代子!」
 刹那。
「お姉ちゃん!」
 振り返る沙粧に、美代子が駆け寄ってくる。
 妹をしっかりと抱きしめる沙粧。
 ホッとするのも束の間、水泡とともに水面に何かが浮かび上がってくる。
松岡「谷口です!」
 夜のプールに咲いた一輪の薔薇。
 実の母への一途な想いを抱いて、遙天空の彼方に魂を昇華させた男、谷口光二。
 彼の口内から溢れ出る薔薇の花びらは、沙粧への最後のメッセージ。
 沙粧は谷口の骸を凝視したまま、はっきりと言った。
沙粧「梶浦だ」
松岡「そんなバカな。梶浦は死んでたじゃないですか」
 水面にプカリと浮かぶ谷口の目じりを伝う一筋の水。
 それはあたかも悲しみに塞がれた物言わぬ青春の殺 人者の涙のようでもあった・・・。


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