○ 梶浦家の裏山(夜) 数十人に及ぶ警官の立ち働く中、梶浦のものと目される白骨死体がクレーン車に吊り上げられる。 それを両角、日野監察医が検分している。 両角「首吊りか・・・おい、右手を見てみろよ」 日野「これは・・・!」 その様子を遠巻きに見ていた池波が人知れず立ち去る。 ○ ホテル(屋外プール・夜) 一方、もうひとつの死体、谷口光二がプールから引き上げられ運び出されていく。 揃えて置かれた谷口のスニーカーを見ている松岡のもとに、高坂がやってきて彼の肩を叩く。 高坂「お前、しばらく俺たちと動け。沙粧には当分のあいだ捜査から外れてもらうことにした」 松岡、複雑な気分で頷く。 ○ ホテル(沙粧姉妹の部屋) ショックのあまり慟哭する美代子を抱きしめる沙粧。 ○ 捜査一課(深夜) 20人くらいの捜査員がひしめいている。 沙粧抜きでの捜査会議である。 目撃者の証言を整理したところ、谷口は自らプールに飛び込んだという。そのとき彼の周囲には誰もいなかった。谷口は花屋の配達と偽って、堂々と正面から侵入したらしい。大きな花束で顔が隠れていたこともあって、誰も見咎めなかったのだ。ただひとつ残る謎は、谷口がどうやって沙粧のいるホテルを知ったかということである。 そこで、松岡が一石を投じる。 「谷口はわざわざ死ぬためにあのホテルに行ったんですかね?」 一瞬、水を打ったようにシンと静まり返る室内。 矢田「確かに他殺と考えるのは難しいな。いや、状況はどうみても自殺だ」 松岡「でも、沙粧さんは谷口の死体見て梶浦の仕業だって・・・」 高坂「バカな!梶浦は死んでたじゃねえか」 ○ 警察病院(昼) 高坂と松岡が白骨死体を直接見に出向いてくる。 両角監察医「状態から見て首吊り自殺で決まりですね。公安から回されたデータとも照合しましたが、この白骨死体は梶浦圭吾に間違いありません」 と、両角がシーツを捲ると凄惨な白骨死体が現れる。 吐き気を堪え目を逸らす松岡。 目を剥いて近づく高坂。 両角監察医、高坂に報告書を提示して「ご覧のとおり歯型も血液型も一致しています」 高坂、さっと眺めて「どうもお邪魔しました」 ○ 同・廊下 高坂、松岡たちに矢田、田辺刑事が合流する。 矢田「警部、梶浦の母親、ちんぷんかんぷんです。聞くたびに違う証言をするんですわ」 田辺「死体埋めたのもよく覚えてないって言ってますし、どうなってるんでしょうね?」 高坂「あの死体は梶浦圭吾じゃない」 衝撃の発言に驚く部下たち。 高坂「あの報告書はまるで母親の証言に合わせているようだ。俺はな、刑事30年やってんだ。あれはどう見ても首吊って死んだヤツにはみえない」 そして、高坂は矢田、田辺組に指示を出す。 高坂「あの死体が本当は誰なのか調べろ。そして梶浦のデータを徹底的に集めるんだ」 ○ 沙粧家 ホテルから久しぶりに帰ってきた沙粧姉妹。 そこへ、池波から電話が入る。 妹から離れた階段で子機を耳にあてる沙粧。いつもの冷静沈着な彼女がそこにいる。 池波「妙子、捜査から外されたんだって?まあ、いい機会だからゆっくり休むといいよ。ところで梶浦の検死の結果だけど、どうして母親にあんなデタラメな記憶が残っていたのか不思議だよ」 沙粧「やっぱり死因は首吊りじゃない。他殺ってことね?」 池波「ああ、おそらく毒殺されたんだろう。1年か1年半くらい前にね」 沙粧「外傷は?」 池波「右手に大きな縫合手術の跡があった」 沙粧「人間に噛まれた傷」 池波「それ、妙子も見たよね」 沙粧「ええ」 池波「もうボクたちだけだ」 沙粧「そうね」 池波「妹さん、家にいて安全なのかい?」 沙粧「そばにおいてた方が安心だから。それにすぐにまた誰かが危険を冒してまで妹に近づいてくるとは思えないし」 ○ 捜査一課 検死報告書を読んでいる高坂と松岡。 そこへ矢田、田辺が戻ってきて、梶浦のデータはなんとか引き出せそうだと報告する。 高坂「となると問題は死体だな。どうすればあの死体が梶浦じゃないと証明できるんだ」 松岡、ハッと思い出し「手だ!」 高坂「何ィ?」 松岡「確か右手に特徴があったんですよ。沙粧さん、白骨死体の右手しか掘り起こさなかったんです。それだけ見て梶浦じゃないって判断した・・・見てください、この報告書に右手の写真がありません」 高坂「よしッ!警察病院行くぞ。もう一度死体の確認をするんだ!」 ○ 警察病院 高坂たちが勢い込んでのりこむも、既に死体は運び出された後。 悔しがる刑事たち。 ○ 科学捜査研究所 池波のもとを訪れた松岡がこれまでの捜査経過を説明する。 松岡「死体はどこに行ったんですか?あの死体は誰なんですか?池波さんなら知ってますよね」 俯いて答えない池波に業を煮やす松岡。 松岡「もう本当についていけません。田舎帰れって言われても、もう仕方ないと思います。どうして話してくれないんですか?ボクは池波さんは信用できる人だと思ってたのに・・・」 池波「松岡君、プロファイリングチームのことは前に話したよね」 ようやく、重い口を開く池波が、彼らの過去を語りはじめる。 池波「立ち上げたばかりのプロファイリングチームは梶浦、妙子、ボクを含めてたったの5人だった。とにかくボクらは犯 罪者のデータを集めることから始めた。犯 罪者に会って話を聞く。はじめは簡単に考えていた。メンバーのひとりに白石という男がいてね、あるとき彼が殺 人犯と接見しているときに手を噛みつかれて重傷を負った。右手の甲に跡が残るくらいひどい怪我だった」 松岡「・・・じゃあ、あの死体はその白石って人なんですか?」 池波「そうだよ」 ○ 捜査一課 その頃、捜査一課では矢田刑事が持ってきた梶浦の資料を高坂たちと見ていた。 矢田が机の上に写真を並べて説明する。 矢田「高城京子、白石稔、梶浦圭吾、沙粧妙子、池波宗一。この5人が当時のプロファイリングチームのメンバーです。チームは5年前に発足、リーダーの梶浦はIQ187だそうです。バケモンですね、こいつは」 田辺「警部、この白石って人、昔、右手に怪我を負ってるみたいですよ」 高坂「おいッ、ってことは、まさか、あの死体・・・」 矢田「替え玉スかね」 高坂「大至急、白石稔の調査だ!」 慌しく動きだす刑事たち。その中で一本の電話が高坂を引き止める。 高坂が受話器を上げると、聞き覚えのある男の声が彼の耳に滑り込んでくる。 「高坂君か。久しぶりだね。私だよ・・・」 ○ ジュエリーショップ その頃、捜査を外されていた沙粧は、梶浦とよく訪れた店に足を運んでいた。 なにげなしに目にとまったハート型のペンダント。それはなんとあの谷口光二が沙粧の写真を入れて肌身離さず身につけていたペンダントと全く同じデザインのものだった。 手にとって目をみはる沙粧に店主が声を掛けてくる。 店主「沙粧様、お久しぶりです」 沙粧「あの・・・梶浦が最後に来たのはいつでしたか?」 店主「沙粧様と一緒に来られたのが最後です。ところで、梶浦様はお元気ですか?私、あの方にデザインを誉めてもらうのが本当に嬉しかったんです」 沙粧は過去に思いを馳せる。 かつて恋人だった梶浦はこの店で、薔薇のペンダントを沙粧にプレゼントしたのだ。 海辺で抱き合うふたり。穏やかだけど幸せな日々・・・もう帰らない日々・・・。 今や薔薇から連想するものは悪しきイメージばかり。 親友、高城京子の死体の口内に押し込められた薔薇の花びら。 同じく加山宏美、谷口光二。 沙粧は胸のむかつきを覚える。胃液がこみ上げてくる。挨拶もそこそこに店を飛び出す沙粧。 ○ ジュエリーショップの外 沙粧は車に乗り込み、池波からいつももらっているカプセルを急いで飲み込む。そうするとたちどころに気分が落ち着いてくる。 後部座席の妹、美代子が心配そうにのぞきこむ。 美代子「大丈夫?」 沙粧「平気よ・・・じゃあ行こうか」 美代子「行くって、どこへ?」 沙粧「海」 ○ 科学捜査研究所 池波と松岡の会話は続く。 池波「そこはまるで戦場にいるような感覚だったよ。プロファイリングチームのみんなは犯 罪者と接見し、近づけば近づくほど犯 罪者の心理や価値観、考え方が伝染してくる。それが当たり前だった」 松岡「狂ってる。犯 罪者と同化するなんてボクにはとても理解できません!」 池波「誰の中にだって、殺 人者になりうる要素はあるんだよ」 松岡「ボクにはありません!」 池波「じゃあ君の愛する人が誰かに殺されたとしても?」 松岡「そ、そりゃあ・・・」 池波「松岡君、それだって人間の中にある悪意のひとつなんだよ」 そして、池波は梶浦の過去を語り出す。 ○ 池波の回想(プロファイリングチームの事務所) 殺 人犯に接見する梶浦の様子を録画ビデオで見るプロファイリングチームの5人。 ビデオの中の殺 人犯は語る。「殺してあげることが最高級の愛情の証なんだ」と・・・。 すべて見終えて梶浦が誰にともなく言う。 梶浦「わかるよ、その感覚。言葉は必ず人に不幸をもたらす。悲しみや恨みや怒りを・・・だからこそ、愛する人には特に口を開いて欲しくなくなるんだ」 ○ 池波の回想(梶浦の部屋) 沙粧と梶浦がふたりきり。 己が狂いはじめていることに歯止めがかけられず苦悩する梶浦。 沙粧「あなたは犯人に近づきすぎている。どうしてあそこまでする必要があるの?」 梶浦「彼らから本当に信頼されるためには、自分の心の中の悪意を呼び出さなくてはいけない。ボクらのプロジェクトを成功させるためには彼らと同化するしかないんだ!・・・危ないのはわかってる。だから、支えてくれ、妙子」 沙粧の胸に顔を埋め子供のように泣きじゃくる梶浦。 ○ 科学捜査研究所 池波の話を黙って聞いている松岡。 池波の口調はまるで早口言葉のように狂気を伴って加速する。 池波「ついに狂った梶浦は妙子にプレゼントをしたんだ。親友である高城京子の死体をね。しかもご丁寧に妙子の好きな薔薇の花びらを死体の口に押し込めて、メッセージカードまで添えて!梶浦はすぐに逮捕された。逃げなかったんだ。そして心神喪失と判断された」 ○ 池波の回想(留置所) 梶浦に呼ばれて面会に来る沙粧。 牢屋の鉄格子には金網が嵌められ、その向こうには椅子に身体を縛りつけられている梶浦の姿があった。 梶浦、狂気を宿した笑みで沙粧を迎える。 一方、かたい表情を崩さない沙粧。 梶浦「やあ、妙子。この格好、似合うかい?ときには不自由になるのもいいものさ。不自由の快感ってやつさ」 沙粧「どうして私を呼んだの?」 梶浦「決まってるだろ、会いたかったからさ。好きだ、妙子」 沙粧「やめて!もうあなたはこっちには戻れないの。もうあなたとは会わない」 梶浦「ふふ・・・ボクたちが別れなくてもいい方法がひとつだけある。 それは君がこっちに来ればいいんだ!必ず君に会いに行く!必ず君を幸せにする!君の求めるものはボクにしかわからない!もっと素晴らしいものを君に贈ってあげる!」 沙粧「ううっ・・・」 狂気にとり憑かれてしまった梶浦にかつて愛した男の影はもはや微塵もない。 梶浦の変貌ぶりに苦しむ沙粧は堪らず逃げるように走り去る。 梶浦、金網越しに沙粧の背中に叫ぶ。 「さよならッ!でも、必ず戻ってくるからッ!」 梶浦の笑い声がこだまする。 ○ 科学捜査研究所 池波「梶浦はその次の日に脱走した。あの死体は白石稔のものに間違いない。当時のメンバーで残っているのはもうボクと妙子だけなんだ。妙子はね、刑事を続けることで辛うじてこっち側に踏みとどまっているんだ。なあ、松岡くん、君は妙子の力になれるハズだ」 松岡、力なく首をふって、「ムリです。ボクにはとても・・・」 ○ 海 季節はずれの海には沙粧と美代子の姉妹しかいない。 美代子「お姉ちゃん、谷口くんって、とてもやさしかったのよ」 沙粧「誰でも両方持ってるの。人ってどっちに向かっていく可能性も持ってるの。良い方にも悪いほうにも・・・」 そして沙粧は誰もいない砂浜に梶浦の幻影を見る。 まだ壊れる前の、狂気に染まる以前の穏やかな梶浦の姿を・・・。 ○ 遊園地 松岡と理江が久しぶりの休日を過ごしている。 園内を歩きながら、難しい表情の松岡。 松岡「なあ、俺が今の仕事続けているうちに変わっていくことがあっても、それでも、お前・・・」 理江「大丈夫だって!だから結婚するんでしょ、私たち」 松岡「俺の言いたいことわかった?」 理江「うん、わかった」 理江の屈託ない笑顔に救われる思いの松岡。 ○ 沙粧家の外(夜) 捜査から外されて情報が入ってこない沙粧のもとに梶浦(本当は白石)の検死結果報告書をこっそり持ちだしてくる松岡。 沙粧、受け取り礼を言う。 沙粧「ごくろうさま」 松岡「いえ・・・それより妹さん大丈夫ですか?」 沙粧「ええ・・・」 松岡「良かった。それじゃ、ボクはこれで失礼します」 立ち去る松岡を呼び止める沙粧。 沙粧「松岡、ムリしなくていいのよ。イヤだったらイヤで・・・」 松岡、振り向いて「いえッ、もう少し付きあいます。ボク、結構ガマン強いんです」 ○ 科学捜査研究所(夜) 池波がひとりでプロファイリングチームのメンバー5人の写真を見ながら大泣きしている。 ○ バー(夜) ひとりで待つ高坂警部。そこへ初老の紳士が現れる。 カウンターで並んで座るその男は卯木俊光。警視庁公安部のお偉いさんで、かつてプロファイリングチームの責任者でもあった男だ。 卯木「すまなかったね。急に呼び出して」 高坂「いえ・・・」 卯木「実は君に頼みたいことがあってね。梶浦のことなんだが・・・」 ○ 街(夜) 雑踏の中、スーツ姿の男が酔っ払いのようにふらふら歩いている。 やがて男は横断歩道の真ん中でパタリと倒れる。 信号が変わったにも拘わらず動かない男。 立ち往生する車のクラクションがけたたましく鳴り響く。 それでも男は起きあがらない。 男はすでに事切れていた。 開いた手のひらには薔薇の花びらが・・・。 新たな事件の幕開けである。 |
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