沙粧妙子第5話

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【沙粧妙子−最後の事件−】

第5話 毒な女
○ 警察病院(夜)
 運ばれてくる遺体を解剖する両角、日野両監察医。
両角「胃液の中に色素が残ってるな。カプセルをいくつも重ねてその中に毒を入れたものを飲ませたんだろう」
 日野が遺体の手のひらに薔薇の花びらが付着しているのを発見する。
日野「これは一体・・・?」
両角「倒れたときにたまたま路上にあったものが付着したんだ」
日野「でもこれ、ノリがつかわれてますよ」
両角「道に落ちてたガムが付着したんだ。問題ない」
 クールに言い放つ両角に不承不承頷く日野。
日野「わかりました」
 そして花びらはゴミ缶に捨てられる。

○ 沙粧の部屋(沙粧の家・2階・朝)
 沙粧ひとりきりの部屋にファックスが受信される。
 送信者は池波。捜査から外されている沙粧のために昨夜の被害者の解剖結果を報せてきたのだ。
 そのファックスから、被害者の手のひらに薔薇の花びらが付着していたことを知る沙粧。
 さらに、その証拠品がすでに処分されていることも知り、気持ちがささくれだつ。

○ 沙粧の家(玄関)
 階下におりてきた沙粧と出かけようとする美代子が玄関で鉢合わせ。
沙粧「おはよう。学校行くの?」
美代子「うん」
沙粧、微笑んで「そう。行く気になったんだ。いってらっしゃい」

○ 警視庁・講堂
 大勢の報道陣を前に、お偉方が雁首揃えて記者会見。連続爪剥ぎ殺 人事件の顛末を報告している。
 主犯は谷口光二20歳。谷口に弱みを握られていた加山はやむなくそれに協力した。なお、4年前に谷口の高校の同級生の女の子が殺 害されていた事実が判明し、この犯人は不明であった。
 と、いった内容だ。
 これで爪剥ぎ事件の捜査はすべて終了。梶浦圭吾は自殺したとして公式記録に残された。
 沙粧はこれをきっかけに職務復帰。再び松岡とコンビを組むこととなる。

○ 貸し金庫
 卯木がひとり密かに「梶浦圭吾DATA」なるものを金庫にしまっている。

○ 捜査一課
 沙粧、松岡、高坂たち捜査員が犇めく中、昨夜の事件の概要を説明する田辺刑事。
 ひと通り説明が終わったのち、高坂が沙粧を伴いふたりだけで出て行く。

○ 会議室
 壁に寄りかかった沙粧と高坂、ふたりきりで話している。
高坂「被害者の手のひらに花びらが付着していたが・・・」
沙粧「倒れたときに路上に落ちていたものが付着した、でしょ」
高坂「ああ、それが鑑識の見解だ。どうだい、沙粧。また薔薇の花びらだよ!」
沙粧「警察組織が自分を守ろうとしているってことでしょう。でも、そんなこと実行犯の逮捕には全く影響ないと思いますが」
 あまりにクールな沙粧に苛立つ高坂、やめていた煙草についに手をのばす。
高坂「いいか、沙粧。俺は全部が全部納得したわけじゃないからな。俺は俺の信念に基づいてやりたいようにやらせてもらう。わかったか!」
 そう吐き捨てて、煙草のけむりをこれみよがしに沙粧の顔に吹きかける。
 しかし沙粧は全く動じず、皮肉たっぷりにやりかえす。「せっかく禁煙してたのに」

○ 科学捜査研究所
 沙粧、松岡、池波。いつもの3人がテーブルを囲み、プロファイリングをはじめる。
池波「被害者は待ち合わせをしていたんだな」
沙粧「犯人と・・・」
池波「だろうね。被害者の男が身に付けていたものは、ブランドものの時計にスーツ、で、財布の中身は7万円」
沙粧「犯人は女。被害者の同僚の証言では特定の恋人はいなかった。だから女性関係は派手だった」
池波「その裏づけとなるのが被害者の身につけていたものだ。女性とのデートのために、おしゃれして金も準備して・・・」
松岡「ちょっと待ってください。それだけで犯人が女だって断定できるんですか?」
池波「統計的にみて、女性が殺 人を犯そうとする場合、そのほとんどは毒殺を考える。ま、それはともかく、その女性の単独犯の可能性も残っているが、もしこれが続くようなら確実だよ。実行犯は女だが、その首謀者は・・・」
松岡「梶浦・・・ですか?」
 池波、わざとらしく咳払いして妙子に水を向ける。「妙子の犯人像を聞かせてよ」
 沙粧が自分の見解を語る。
 犯人は20代後半。たぶんこれが初めての犯行。
 自分がある程度美しいことを認識している。髪はロングかセミロング。
 服装はスーツに短めのスカート。色は赤か紫。あるいは原色に近いものを着ている。
 スタイルもいい。しかし、なんらかの形で性的コンプレックスを抱いている。
 そして、犯人は必ず犯行を重ねる。

○ 男子トイレ(科学捜査研究所)
 松岡と池波が連れションしている。
池波「妙子のことはくれぐれも頼むよ。今度の相手は女性だからさ」
松岡「はい」
池波「それとね、君のことなんとかできると思うよ」
松岡「え?」
池波「君の研修が終わった後のことさ。引き続き警視庁に残れるようにできそうだ」
 松岡、思いがけない申し出に吃驚する。
松岡「ホントですか!」
池波「ああ、そのくらい簡単なことだよ。君が優秀な刑事だと上の連中を説得すればいいだけだからね」
松岡「あ、ありがとうございます!」
 感動のあまり汚い手で池波に握手を求め、閉口される松岡。

○ 駐車場(科学捜査研究所)
 空き時間を利用して、理江の職場に電話をかける松岡。
理江「どうしたの?勤務中でしょ」
松岡「俺、東京に残れそうなんだ。それを早く言いたくてね」
理江「ホント!やったじゃない!」
松岡「ああ、やったよ」
 電話の向こうで一緒に喜んでくれる理江に、デレデレと相好を崩す松岡。
理江「ねえ、会いたいよ。10分でもいいからさ。優起夫に話があるんだ」
松岡「わかった。また電話する。じゃあな」
 ニヤニヤしながら電話を切ると、車の窓に沙粧の姿が映っている。
 不謹慎だったかな・・・と、気まずそうな松岡。
 沙粧が無表情に問いかける。
沙粧「幸せ?」
松岡「あ、いや、はい・・・あっ、あの、もしかして、ボクが東京に残れるように沙粧さんが池波さんにお願いしてくれたんですか?」
沙粧「いいえ。私はただ東京に結婚前提の恋人がいるって話しただけよ」
松岡「沙粧さん・・・」
 松岡、感激して頭を下げる。

○ 街
 被害者が死んでいた交差点を中心に現場検証をする沙粧と松岡。
 被害者が歩いてきたと思われる道を辿りながら問答をはじめるふたり。
沙粧「毒入りのカプセルをどうしたら確実に飲ませられると思う?」
松岡「さあ、わかりません」
沙粧「女が薬を扱う場合のほとんどは、ビタミン剤とか美容に関するものよ。まずはそういったものを買ってくれないかと持ちかけるの。もちろん女の色香を匂わせてね。そしたら大抵の男はソノ気になるでしょ。ホテルの部屋はあなたがとっておいてと耳元で囁いてやればスイートだって喜んでとるわよ」
松岡「なるほど」
沙粧「梶浦が女に殺 人の快楽を教えたんだとしたら、犯人はきっとターゲットともう一度会う約束をして薬を飲ませ、そして別れる」
 沙粧、あたかも犯人に憑依したかのようにアブナイ目をして横断歩道に向かって歩き出す。
「女は確かめたかった。薬は本当に効くのか?男はどんな死に方をするのか?だから男のあとをつけていく。女は殺 人の実感を得たいと思う。だからどうしても男の死ぬところが見たい!ドキドキする。コーフンする。女は追いかける。男が倒れた。男が死んだ。ああッ・・・!女は感動を味わう。堪能する。私が・・・この私がやったんだ!もっと、もっと近くで見たい。どんな顔して死んでるのか見たいッ!ああッ!コーフンする。マンゾクするッ。これで梶浦も喜んでくれるだろう。そして殺 人がヤミツキになる
 松岡、気味悪そうに沙粧の背中を見ている。沙粧がまるで犯人に見えてしかたがないのだ。

○ 喫茶店
 沙粧がひとりで解剖所見の資料を眺めている。
 そこには被害者の唇から口紅が検出されたとある。
 そんな彼女の足元に一本の口紅が転がってくる。
「すいませぇん、拾っていただけますかぁ」
 甘ったるい声で呼びかけてきた女、北村麻美
 沙粧、拾って麻美に渡す。
麻美「ありがとぉ」
 麻美が沙粧の隣りのテーブルに座る。彼女の視線に気付いた沙粧が声をかける。
沙粧「何か用?」
 すると麻美、ひどく冷たい視線を沙粧に向けて言う。「あなた、ココロがすさんでる
 よく見ると麻美は、沙粧がプロファイリングした犯人像にピッタリ一致している。
 微笑を残して出て行く麻美。入れ違いにやってくる松岡。
松岡「沙粧さん、今の女、誰ですか?」
沙粧「追いかけて。早く!」

○ 街の雑踏
 麻美を尾行する松岡。しかしまんまとまかれてしまう。そこへ沙粧が合流してくる。
沙粧「いない?」
松岡、ハアハアと息が上がってる。「すいません・・・誰なんスか、あの女」
沙粧「さあね」

○ 麻美のマンション
 ベッドに横になり、電話で梶浦と話している麻美。
梶浦「麻美、これからも今の状態を続けていきたいと思うのなら、感情に流されてはいけない」
麻美「だって、あの女を見ておきたかったんだもの」
梶浦「過去のことだよ」
麻美「だったらどうしてあたしに話したりしたのよぉ」
梶浦「お互いの過去を語りあうことがボクたちには必要だったからさ」
麻美「あのね、あたし、自分がこんなに大胆になれるとは思ってもみなかった」
梶浦「自分を過信してはいけないよ。初めての犯 罪には必ずミスがあるものだから・・・」

○ ホテルの一室
 犯人と被害者が会っていたと思われる部屋で、捜査員たちが働いている。
矢田「被害者が自分の名前で予約してましたから、犯人の手がかりになるようなものはないですね」
高坂「いずれにせよ、ここで薬を飲まされたんだろうな」
矢田「指紋が残ってりゃあいいんですけどね」
 高坂、沙粧を睨みつけて言う。「犯人は女だな」
 沙粧、今頃気付いたの、とばかりに鼻で笑い、松岡を伴って部屋を出ていく。

○ ホテルのプールサイド
 沙粧と松岡が歩いている。
松岡「沙粧さん。どうして犯人の服やその色のことまでわかるんですか?」
 先日、科学捜査研究所で分析した犯人像の根拠について語り出す沙粧。
 松岡は、しきりに感心して聞いている。
松岡「つまり、犯人はアグレッシヴってことですか」
沙粧「犯 罪に対してはね。この犯人、意外とすぐにボロを出すかもしれない。殺 人のスリルを楽しんでるところあるから・・・

○ 街
 沙粧と松岡、さらに歩きながら続きを話す。
松岡「じゃあ、髪型は?ロングかセミロングって、沙粧さん言ってましたよね」
 そんな松岡の問いに対しても、心理学の観点から理路整然と説明してみせる沙粧。
 そして最後につけくわえる。
沙粧「それに髪が長いのは梶浦の好みだから。だから犯人もきっと・・・」
 沙粧の長く美しい髪を見つめて、複雑な表情の松岡。

○ ホテルの一室(前出とは別のホテル・夜)
 サラリーマン風の男、菅野と麻美がテーブルを挟んで向きあっている。
 テーブルの上には様々な薬ビンの入ったアタッシュケース。
 麻美のからだに好色な視線を這わせる菅野が麻美の腕を強引に掴むが、麻美は軽くあしらってボールペンを差し出す。
麻美「まずアンケートに記入してちょうだい。それからこの薬を飲んでもらって、その結果を3日間モニターしてもらうの」
 と、言い終わった頃には、水とカプセルを差し出している。菅野、請われるままにカプセルを飲む。
菅野「これ、なんの薬?」
 麻美、悪戯っぽく笑って、「元気の出る薬」と答える。
 菅野が麻美を立たせ、後ろから抱きしめる。
菅野「これだけのために俺と待ちあわせか?」
麻美「へえ、そんなに女に自信があるんだ」
 と、いきなり鋭い肘鉄を食らわす麻美。たまらず尻餅をつく菅野。
麻美「髪に触るのはダメなのぉ!」
 すると、菅野が急に苦しみだし、のたうち回る。
 麻美、さも楽しそうに「あら、もう効いてきた?」
 やがて菅野が動けなくなる。意識だけがハッキリしている状態。
麻美「おもしろいわよね、人間って。薬でこんなになっちゃうんだから。どうしようもないでしょぉ?動けないでしょぉ?口も閉じられないでしょぉ?きゃははッ、自慢の顔がダイナシね。あなたって女をモノにすることしか考えてないでしょ。アレしかキョーミないんだものねぇ」
 動けない菅野に馬乗りになってビンタを連発する麻美。
麻美「ひどいヤツ。サイテー。サイテー。サイテー」
 麻美が別のカプセルを持ってきて、開きっぱなしの菅野の口もとに持っていく。
麻美「これね、トリカブトからとったお薬なの。これ、あなたにあげるね」
菅野「う・・・うう・・・」
 抵抗空しく、麻美から口移しでカプセルを飲ませられ絶命・・・

○ 捜査一課
 毒殺事件2人目の被害者、菅野洋一郎の資料を見ている捜査員たちのもとに矢田刑事が息せき切って駆け込んでくる。
矢田「ふたりの被害者の共通点が見つかりました。ふたりともリサーチ会社の名簿に載ってました。要するに新商品なんかを試したりするモニターってやつです」
高坂「でかした!で、その名簿に何人載ってるんだ?」
矢田「10万人です」
田辺「えー!それ全部調べるんですか」
高坂「それが刑事の仕事なんだよ、バーカ!」と、田辺の頭を小突く。
 一方、彼らから少し離れたところでリサーチ会社の名簿に目を通している沙粧。
 それを脇から覗き込んだ松岡が驚愕の声をあげる。
松岡「沙粧さん、これって!」
 名簿には北村麻美の顔写真。
 早速高坂に報告しようとする松岡を沙粧が押しとどめる。

○ 地下駐車場(警視庁)
 沙粧を追いかける松岡。
松岡「北村麻美のこと、どうして高坂警部に報告しないんですか!」
沙粧「北村麻美は犯人よ。今度こそ梶浦を逃がしたくないの。だから先に動きたいの。松岡、あなたは北村麻美の資料を池波さんに渡して」
 にらみ合うふたり。ついに、松岡が折れた。
松岡「わかりましたよ!ただし、北村麻美と会うときはボクも一緒ですからね」
沙粧「いいわ」
松岡「絶対ですよ!」

○ 科学捜査研究所
 麻美の資料を池波に渡す松岡。
松岡「どうして北村麻美は危険をおかしてまで沙粧さんに会いに来たんですかね」
池波「梶浦の昔の恋人を自分の目で確かめたかったんだろう。それより松岡君、妙子を頼むよ」

○ 麻美のマンション
 単身のりこむ沙粧。しかし誰もいない。ふと麻美の言葉を思い出す。
「あなた、ココロがすさんでる」
 ふいに「妙子」と呼ぶ声。懐かしい響き。声の主は梶浦だった。梶浦はベッドに半身を起こしていた。その隣りにピッタリ寄り添っているのは麻美だ。
沙粧「ううっ・・・」
 取り乱す沙粧。しかしそれはすべて幻。
 沙粧、洗面所に駆け込み、いつもの薬を飲みくだす。

○ 捜査一課
 高坂が電話で良い報せを受けた。
高坂「ホテルで検出された指紋が、リサーチ会社の名簿にある指紋と一致したぞ!」
矢田「じゃあ、すぐに犯人割り出せますね」
田辺「すごい!」

○ 公園
 松岡と理江がベンチに座っている。
松岡「話って、なに?」
理江「うん、あのね、両親に会ってほしいんだ。優起夫のこと刑事だってお父さんに話したらスゴク心配しちゃってさ。ほら、相手の男が危ない仕事なら不安じゃないかって言うの」
松岡「なるほど・・・」
理江「だから、直に優起夫に会ってもらえばそんな心配しなくなると思うんだ。それに親公認の方がこれからも会いやすいし」
 松岡、それもそうだなと笑顔で頷く。「わかった。近いうちに時間つくるよ」
理江「ホント!」
 そこへ松岡の携帯の着信音がふたりの間を引き裂く。松岡、素早く電話をとると沙粧からだった。

○ 麻美のマンション
 高坂警部、矢田、田辺刑事が揃って到着。高坂のみが車で待機し、矢田と田辺がマンションに入っていく。
 さらに一歩遅れて、沙粧と松岡の車が到着する。

○ 麻美の部屋の前
 矢田たちが部屋の前まで来ると、ちょうど麻美が出てきたところだった。
 矢田、警察手帳を提示し、「北村麻美さんですか?ちょっとお話しを・・・」
 すると、麻美が素早く、カプセルを取り出し、今にも飲み込もうとする。
麻美「来ないで!近づいたら飲むわよ」
矢田「や、やめろ」
 麻美、カプセルを飲んでぶっ倒れる。
 矢田、慌てて吐かせようとする。
 田辺、吐かせるための水を汲みにいく。
 外で見ていた高坂が「ナニやってんだ!」と車から出てくる。
 そこで偶然、沙粧たちの姿を発見する。また、出し抜かれたか!と、怒り心頭の高坂。
 部屋の前に視線を戻すと、カプセルを飲んだハズの麻美がパッと目を開き、矢田に目潰しの粉を浴びせかけ、その隙を突いて駆け出した。走りながら、まだ溶けていないカプセルをペッと吐き出す麻美。
 たまらず飛び出した松岡が麻美を追う。

○ 直線の坂道
 スーツにハイヒールの麻美はそんなに早くは走れない。
 やがて松岡に追いつかれる。松岡が拳銃を抜いて、坂の頂上にさしかかっている麻美を威嚇する。
松岡「待てッ!とまらないと撃つぞ」
 両手を上げて立ちどまる麻美。
 そんな絶体絶命の彼女のもとへ、反対側からベビーカーを押した女性が坂をのぼってくる。
 あっという間にベビーカーを奪いとり、坂の下にいる松岡に向けてそれを転がす麻美。
 女性の悲鳴、逃げる麻美。
松岡「バッ、バカタレがっ!」
 松岡必死でベビーカーをセーブする。しかし、麻美との距離がまた広がってしまった。
 そこへ、今度は高坂がパトランプを鳴らしながら車で麻美を追跡する。

○ 道路
 みるみる距離が縮まっていく麻美と高坂。
 麻美が近くに落ちていた工事現場のスプレーペンキを拾って、迫りくる高坂の車のフロントガラスめがけて噴射。視界を奪われた高坂の車は路肩に乗り上げ身動きがとれなくなる。矢田、田辺、松岡、高坂と捜査一課の男どもを翻弄した麻美がケラケラ笑いながら、また逃げる。
 車から出てきた高坂が、ようやく追いついた松岡を殴りとばす。
高坂「お前ら、また勝手なマネしやがって!」
 そんな彼らの脇を一台の車が通過していく。運転席には沙粧。真打ち登場である。
 それを見た松岡が力強く言う。「大丈夫です。きっと沙粧さんが捕まえてくれます」
 その言葉を裏付けるかのように、松岡たちの視線の先で麻美に追いついてみせる沙粧の車。
 麻美が今度こそ観念して歩をとめた。
 沙粧が車の中からパワーウインドウを下ろし、冷ややかに麻美に命じる。
「乗りなさい」
 訝しげにしながらも助手席に乗り込んでくる麻美。
 当然のように車を発進させる沙粧。
 目の前を走り去る車に呆然となる松岡。
 高坂の怒声がむなしく響く。
高坂「沙粧ォ!ナニやってんだァ!」

○ 車内
 笑い転げている麻美。
麻美「あなた、私を助けたの?バカみたい」
 運転しながら拳銃を突きつける沙粧。
沙粧「笑うのやめなさい。さあ、連れてってもらいましょうか」
 麻美は、拳銃など露ほども恐れず「どこへ?」と、とぼけてみせる。
沙粧「梶浦のところ」
麻美「会いたいの?じゃあ、連れてってあげる。懐かしいでしょぉ?ドキドキするぅ?」
 沙粧、怒りに任せて麻美を殴る。
沙粧「言っとくけど私、銃がヘタなの。威嚇しようと思って手元が狂って顔に当たっちゃうかもしれないけど、それでもいい?」
 麻美、沙粧の気迫に負けまいと、前を見据えてキッパリと言う。
麻美「梶浦はあたしのモノよ」


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