○ マンション 北村麻美に銃をつきつけながら麻美の先導するマンションに入っていく沙粧。 麻美「顔色悪いわよ」 沙粧「余計な心配しなくていいの」 麻美「ねえ、あたしたちって似てるね」 沙粧「早く歩きなさい」 ドアを開けてリビングに入る二人。 銃を四方に向けて注意を払う沙粧。しかし、部屋には誰もいない。 沙粧「梶浦はどこ?」 麻美、沙粧を無視してベッドに横たわる。 麻美「ああ、あの人の匂いがする」 いらだたしげに麻美のひたいに銃を突きつける沙粧。 沙粧「きこえないの!」 麻美「まだきてないみたいね」 あくまでも余裕の表情の麻美。 沙粧の銃が火を噴いた。 麻美から数十センチ隣り、ベッドの羽根が宙を舞う。 沙粧「対等じゃないのよ、私たち」 麻美「あたしが優位ってこと?」 沙粧「今度は当てるわよ」 麻美「焦ることないわよ、すぐに来るから。待ちに待った再会ね。最初になんて言うの?どんなあいさつする?梶浦があなたにどう接するかあたしも楽しみだわ」 沙粧「それはムリね。何か言う前に私が撃ち殺すから」 麻美「カッコつけないでよぉ。あなたに梶浦を撃てるわけないじゃない。あなたのこといろいろ聞いたわ。梶浦があなたのどんなところに惹かれたか。どういうふうに愛したか。そして、あなたがどういうふうに応えたか」 沙粧「黙って!」 麻美「あたしと梶浦の間には秘密なんてない。だからあなたのこと全部知ってるの。あなたが梶浦のこと忘れられるハズがない。かわいそうよね。あなたには二人だけの秘密なんてなにもないのよ」 沙粧「黙りなさい!」 泣き叫ぶ沙粧が、バッグからいつもの薬を取り出して飲もうとする。 麻美「今はその薬があなたの恋人ってわけね」 麻美、スキをついて沙粧の薬を叩き落とす。 度を失っている沙粧はばら撒かれた薬を必死に拾い集める。 麻美が沙粧の無防備な背中に一撃をくわえると、電話のコードをひっこぬき、すばやく沙粧を後ろ手にしばりあげる。完全に形勢逆転である。 麻美「うふふ、これでおしまいね」 沙粧「いつから梶浦と会ってたの?」 麻美「1年半ぐらい前かな、あの人から電話がかかってきたの。定期入れ落としませんでしたかってね」 それを聞いて嘲るようにわらう沙粧。 麻美「何がおかしいの!」 沙粧「教えてあげようか。梶浦はあなたのことなんて愛してないわ。あなたはただの遊び道具」 カッとなる麻美がはじめて取り乱し、沙粧の馬乗りになって平手打ちをかます。 麻美「ふざけたこと言わないで」 沙粧「女性の連続殺 人の例はあまりないの。つまりデータが不足しているということなの。梶浦は確かめたかった。女性の連続殺 人犯にはどんなケースがありえるか。それをあなたで実験したかったの。定期券拾ったなんてウソ。あなたに近づくために盗んだのよ」 麻美「梶浦のことならなんでもわかるっていうの?」 沙粧「少なくともあなたよりはね。用がすんだら捨てられてそれでオワリよ」 麻美「このッ!」 沙粧を蹴飛ばす麻美。そこへ電話のベル。 麻美「もしもし・・・・・今ココにいるわよ・・・・・わかった、そうする」 電話を切った麻美がうれしそうに報告する。 麻美「梶浦からよ。次に連絡をとる場所決めたの」 麻美が行動を開始した。 まずガス台の火をつけ、それを吹き消す。 次に電気スタンドの電球を割り、フィラメントを剥き出しにする。 これで自動爆破装置の完成である。 悠然と部屋を出ていく麻美。 身動きが取れない沙粧はガスを吸い込み、意識が混濁していく。 ○ マンション外の電話ボックス 麻美が電話ボックスからマンションへ電話する。 暗証番号を押して、電力供給命令をする。 ○ マンション ドアが開き、梶浦圭吾が飛び込んでくる。 梶浦「妙子!」 梶浦が沙粧を担ぎ上げ、そのまま出口へ走る。 電力供給開始! うなるステレオ。 そして剥き出しのフィラメントに火がともる! ────閃光 爆発! マンションの窓ガラスが吹っ飛び、炎を上げる。 外の電話ボックスからその様子を恍惚と眺めている麻美。 麻美「きれい・・・」 ○ マンションの廊下 間一髪、逃げ延びた沙粧。 沙粧を庇うように覆い被さっている男。 それは梶浦ではなく松岡だった。 松岡「もう大丈夫ですよ、沙粧さん」 ○ 病室 ベッドで目覚める沙粧。 松岡、池波、美代子らが見守っている。 美代子「お姉ちゃん、気づいた」 沙粧「どうして私助かったの?」 池波「あのマンション、白石の名義になっていたんだ。おそらく梶浦は白石を殺したあと、自分で使っていたんだろう。やっと調べがついたとき、松岡君から電話があった。間一髪だったよ。妙子をあの部屋から助け出したのも松岡君だ」 松岡「ホントに危ないところでした。助かってよかった」 池波「妙子、頼むからあまり無茶をしないでくれよ」 沙粧「梶浦に今度こそ会えると思ったのに・・・。それで北村麻美は?」 松岡「逃走中です」 沙粧「あの女、大胆すぎてとても緻密な犯 罪者とはいえない。しかもあんな爆発騒ぎを起こしてるようじゃ梶浦に見捨てられるに決まってる。松岡、北村麻美の過去の男性関係を調べてちょうだい。そんなに多くはないはずだから」 ○ 図書館 鼻歌を歌いながら一冊の本を手に取る麻美。 本を開くと中がくりぬかれていて、そこには折りたたまれた紙片が入っている。 心躍らせつつ紙片を開く麻美。 『 e n d 』 君との関係はおしまいだ。 そんな梶浦の冷たい意図がその3文字には込められていた。 愕然とする麻美がその場にしゃがみこむ。こみ上げる絶望の中で沙粧の言葉がよみがえる。 ──用がすんだら捨てられてそれでオワリよ。 ○ 宮原理江の家(数日後) 仕事を抜け出し、理江の家にやってきた松岡。初めての訪問でガチガチに緊張している。 座卓をはさんで、理江の父、宮原安一と向き合う松岡。二人の間には理江が座っている。 気まずい沈黙が続く。どうやら、安一も緊張しているようだ。 理江の母、八重子が冷たい麦茶を持ってきて、安一の隣りに座る。 沈黙に耐えかねた松岡が一気に麦茶を飲み干した。 松岡「緊張してます!」 再び沈黙。 安一「あー」 松岡「ハイッ!」 安一「今度・・・」 松岡「ハイッ!」 安一「一緒に寿司でも食べに行きましょうか」 松岡「ぜひッ!」 理江が安一の顔色を伺い、ニッコリ微笑む。 無骨な父親だが松岡のことを気に入ってくれたようだ。 ○ 駐車場 沙粧と松岡が麻美が昔付き合っていた男、星野辰雄に話を聞いている。 星野「麻美が僕に連絡するなんて絶対ありえませんよ」 沙粧「彼女とは大学時代の知り合いですね。3年間同棲生活をしていた・・・」 妻も娘もある星野としては、昔の話を蒸し返されるのは迷惑だといった態度である。 星野「純愛だったんですよ。彼女の実家は厳格で結婚が前提だった」 沙粧「でも彼女には不満があったはずです。北村麻美の犯 罪はなんらかの性的コンプレックスに起因しています」 星野「同棲生活は彼女の憧れでね。2ヶ月目で説得してようやくベッドイン。そしたらゼンゼンうまくいかなくて。彼女はそういうことができない女だったんだ。カラダに欠陥があるわけじゃないのに。そのくせあいつはなんでも形から入りたがった。恋愛も周りから幸せそうに見えることが重要で、そういう恋人同士を演じることが理想だった。だけど肉体関係はナシ。僕はそれに3年間付き合わされた。そういえば、遊園地も好きだったな。告白する場所、初めてキスする場所は遊園地なんだってさ。麻美はよく言ってた、心で繋がりたいんだって」 ○ 海辺のホテル スイートルームで優雅に食事をしている麻美。 目の前に座っている男に楽しそうに語りかけている。 しかし、その男は椅子に座ったまま既に事切れている。 麻美に毒殺されたのだ。 ○ 科学捜査研究所 沙粧、松岡、池波がひたいを寄せ合っている。 池波「梶浦が麻美と連絡をとるのをやめたらどうなると思う?」 沙粧「麻美が犯 罪を犯すのは梶浦の感性に近づきたいからよ。だけどそれがなくなったらきっと・・・暴走する」 松岡「暴走ですか?」 池波「目的と手段が逆になるんだな。たとえば、ドライブをしたいから車をほしいと思う。それとは逆に車を持っているからとりあえずドライブしようって気になることがあるだろう」 沙粧「人を殺すという目的があるから、毒という手段が必要になる。でも目的を失い、毒だけが手元に残れば・・・」 松岡「毒があるから、殺す相手を見つけようとするってことですか」 池波「そういうことさ」 松岡「バカな!」 と、そこへ捜査一課から連絡が入る。 また新たな毒殺死体が発見されたとのこと。ついに北村麻美が動き出した。 ○ ビルの屋上(夕方) 麻美が手のひらに毒のカプセルを乗せて眺めている。 麻美「あと、ふたつか・・・」 つまり、あとふたり殺すということである。 ○ 満員電車(夜) ぼんやりとつり革につかまっている麻美に中年男が擦り寄ってくる。 男が麻美の体に指を這わせる。なんら抵抗しない麻美に対し、大胆に体を寄せてくる男。 麻美はニヤリと笑い、毒のカプセルを取り出す。 ○ パトカー(移動中) 沙粧と松岡の乗るパトカーに無線が入る。 無線の声「電車の中で毒殺事件発生。北村麻美らしき女が桜ヶ丘駅で目撃されている。急行願います」 沙粧「暴走だわ」 松岡「北村麻美はどこに行こうとしてるんですかね」 沙粧「彼女にとって特別な場所・・・遊園地。彼女、死のうとしてる」 地図を広げると桜ヶ丘駅付近に遊園地「ジョイランド」がある。 ○ ジョイランド 夜の遊園地は人でごったがえしている。 やがて、麻美を発見する沙粧たち。まるで無防備に生気の抜けたようにボンヤリとベンチに座っている麻美に銃を向ける沙粧。そこでようやく麻美は沙粧の存在に気づく。 麻美「なんだ。あなた、生きてたの」 沙粧「残念だったわね」 麻美が残り一つとなった毒のカプセルを取り出してみせる。 沙粧「ここがあなたの死に場所ってわけ?」 麻美、ゆっくりとカプセルを口に含む。 沙粧「やめなさい」 麻美「まだ口の中よ。飲み込んでない」 沙粧「あなたに自殺なんて似合わない」 沙粧、なんとか思いとどませようと麻美に近づく。 麻美「それ以上近づいたら飲み込むわよ。そしたら梶浦のこと何にも聞きだせなくなっちゃうんだからね」 沙粧「吐き出しなさい」 麻美「来ないでよ」 そこへ遅ればせながら、高坂警部、矢田刑事、田辺刑事たちが到着。 高坂「いたぞ、北村麻美だ」 勢い込んでやってくる高坂たちを慌てて押しとどめる松岡。 松岡「待ってください、警部」 高坂「なんだ!」 松岡「彼女、カプセルを口の中に入れてるんです。近づいたら飲むって言って」 高坂「くそぉ!」 手も足も出ない高坂が地団太を踏む。矢田刑事が万一に備えて救急車を手配する。 やがて麻美はきびすをかえし、観覧車に乗り込む。 沙粧もその後を追い、同じボックスの中へ。 ○ 観覧車 動き出した観覧車の中、向き合って座るふたり。沙粧が麻美に銃を突きつけている。 麻美「一周してくる頃には、あたし死んでるね」 沙粧「早くカプセル出しなさい」 麻美、素直にカプセルを吐き出す。 沙粧「このほうがあなたらしい。で、梶浦はどこにいるの?」 麻美「しらない」 沙粧「どうして庇うの?あなた捨てられたのよ」 麻美「初めてだった。本当に信用できる人。あたしにはあの人しかいないの」 沙粧「梶浦はあなたのコンプレックスを利用しただけよ。性的なものをあなたに求める男はみんな加害者だってあなたに錯覚させているの」 麻美「違う!」 沙粧「梶浦があなたに優しくしたのは、あなたを殺 人鬼にしたてあげたかったから」 麻美「違うわ!」 沙粧「梶浦があなたにナニしてくれた?毒薬くれただけでしょ」 麻美「あたしたち愛しあったの。後悔してない」 沙粧「これから後悔するの。梶浦とさえ出会わなかったら、あなたは人を殺したりしなかったんだから」 麻美「あなたはどうなのよ。後悔してない?」 沙粧が銃口を麻美のひたいに押しつける。 沙粧「梶浦はどこ?」 麻美「教えない」 沙粧「なっ・・・!」 麻美「もう一度言うわ。あたしは後悔していない。あの人に会えて幸せだった」 ○ ジョイランド そして観覧車は一周し、ドアが開く。 沙粧に促され降りてくる麻美を松岡と田辺が両脇から拘束する。 麻美「うえっ!」 と、突然えずきだす麻美。 沙粧「バカな!毒は飲まなかったハズよ」 しかしそれは麻美の巧妙な芝居だった。 麻美が吐くふりをして屈んだ拍子に田辺の懐から拳銃を抜き取る。 慌てた松岡が自分の懐に手を入れ拳銃を抜こうとするが、すばやく麻美に銃口を突きつけられ、かたまってしまう。 警官隊や野次馬たちに囲まれ、もう逃げることは不可能と思えた麻美のやぶれかぶれともいえる反撃。 誰もが動けない。 今まさに松岡が撃たれると思ったその瞬間。 麻美は銃口を己の胸に押し当て引き金を引いた。 夜の遊園地にはおよそ似つかわしくない銃声が響き渡る。 沙粧の目には、麻美の胸に薔薇の花びらが舞ったかに映っていた。 これは自殺ではない。梶浦が殺したのだと・・・。 もはや虫の息の麻美をそっと抱き起こす沙粧。 沙粧「なにか言い残すことある?」 麻美「・・・梶浦の・・・写真・・・見せてよ・・・・・・あたし、彼の顔・・・見たこと・・・ないから・・・」 沙粧「・・・!あなたが知ってるのは梶浦の声だけ?あなたたち電話だけで繋がっていたの?」 麻美「やっぱり似てるね、あたしたち」 力なく笑う麻美が沙粧の腕の中で息を引き取る。 取り返しのつかない失態に号泣する田辺刑事。 松岡も歯を食いしばり怒りを堪えている。 松岡「どうしてこうなるんですか!たまんねえよな、簡単に人殺しやがって!」 ○ 科学捜査研究所 深夜の研究所で、ひとり作業している池波。 パソコンに北村麻美のデータを入力しているところだ。 事件の経過の最後に『自殺』と入力し終了。 すると、モニターの画面中央に小さく表示される文字。 『 e n d 』 そんな彼の背後に音もなく忍び寄る男の影。池波が振り返って無表情に相手の名を呼ぶ。 池波「卯木さん・・・」 |
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