沙粧妙子第7話

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【沙粧妙子−最後の事件−】

第7話 少年コントロール
○ 捜査一課
 高坂警部が矢田刑事と川辺刑事に卯木から渡された資料を見せている。
高坂「北村麻美がどうやって毒を手に入れたのか。なぜあんな犯行に及んだのか。それらはすべて本人の自殺により不明・・・だとさ」
矢田「バカな!梶浦の件にはまったく触れてないじゃないですか」
高坂「だが、これが本庁の正式発表になるそうだ」
川辺「すいません、ボクの不注意で北村麻美を死なせてしまって・・・」
矢田「気にすんな。そんなものはこれから埋め合わせすればいいんだよ」
高坂「問題は誰が得をするかだ──梶浦の存在を隠そうとする大きな力が動いてることは間違いない。くそっ、このままじゃすまさねえぞ」
 そして、高坂は声を絞ってふたりに言う。
高坂「これからは俺たち3人だけで内密に捜査を続ける。公安とは別に俺たちも梶浦圭吾を追いかけるんだ」

○ 日置武夫の住処
 荒廃的なイメージの屋根裏部屋で武器を作っている日置。
 機械仕掛けの飛びだすナイフを袖の下に装着し感覚を確かめている。
 また、もうひとつの武器、手にすっぽりおさまるくらいの打撃系の武器をマネキンの米神に何度も打ちこむ。
 机の上の週刊誌には某高校のいじめ問題を扱ったゴシップ記事。
 そして彼の手帳にはその高校の教頭の行動表が仔細に記入されている。

○ 科学捜査研究所
 沙粧、池波、松岡が北村麻美の事件を振り返っている。
沙粧「また同じパターンの事件が起こる可能性があるわね」
松岡「梶浦がどんな天才か知りませんけど、人間をそんな簡単に思いどおりに動かすことなんてできるんですかね。それも人を殺すように仕向けるなんて──」
池波「松岡君は絶対に自分は騙されないと思う?」
松岡「自分が他人に考え方までコントロールされることはないと思いますよ」
沙粧「誰もがみんなそう思ってる。ただ漠然と──」
松岡「じゃあ、沙粧さんはどう思ってんですか?」
沙粧「人間の本質を変えるのは、リンゴの品種改良よりカンタンだと思うわ」
 不満げな松岡だったが言い返すことができない。
池波「妙子、実はもうすぐプロファイリングチームが再開できそうなんだ。だけど、その前に梶浦の問題をなんとか処理したいと思っている。協力してくれ」
 しかし沙粧は返事をせず──

○ 男子トイレ
 池波と松岡が連れション。
松岡「あ、そうだ。池波さん、今夜ウチ来ませんか。一緒にゴハン食べましょうよ」
池波「遠慮するよ、君の彼女に悪いからね」
松岡「いえ、ボクも彼女も本当に池波さんには感謝してるんです。だからちゃんとお礼したいので是非」
池波「(うれしそうに)ホントにいいの?」
松岡「ハイッ!」

○ 松岡のアパート(夜)
 池波、松岡、理江がすき焼きを囲んでいる。
松岡「すいません、きたないところで」
池波「いや全然。ボクね、一人暮らしだからだいたい外食でしょ。だからこんな雰囲気で食事するのって久しぶりで何だかうれしいんだ」
理江「池波さん、優起夫のことホント感謝してます。ありがとうございます」
池波「や、そんなふうに言われると照れるなあ」
 と、笑う池波が、やがて無表情に理江を見つめる。
松岡「池波さん、どうしました?じっと彼女見つめて」
池波「(ハッと我に返り)いやあ、なんかいいなあって思ってさ。全くお似合いだよ、君たち」
 松岡、デレデレと頭を掻く。
理江「食べよ」
池波「うん、ウマイ!」
松岡「ねえ、池波さん。沙粧さん言ってたじゃないですか。人間を変えるのはリンゴの品種改良より簡単だって──そんなことってありますかね?」
池波「あるある。人間の精神状態や思考を変えることはだいぶ前から研究されていてね、ほら、サブリミナルとかマインドコントロールとか有名になったじゃないか。あっ、そうだ。たとえばね、こんな実験知ってるかな」
 得意な話題のためか興奮気味にまくし立てる池波に松岡たちはじっと聞き入っている。
池波「ここにつり橋がある。ものすごく揺れるつり橋だ。で、その橋の向こうに女の子を立たせる。で、反対側から被験者の男の子にこのつり橋を渡ってもらう。さあ、するとどうなると思う?」
松岡「さあ・・・」
池波「なんと被験者はこの女の子を好きになってしまう!どうしてそうなるかというとね、ほら、グラグラ揺れるつり橋を渡ると恐いでしょ。ドキドキするでしょ。ドキドキしながら橋の向こうの女の子を見ると、体の反応を心のほうが勘違いしちゃうんだな」
理江「勘違い?」
池波「そう。この女の子を見ているせいで自分がドキドキしてるんだって気になっちゃうだよ。で、ホントに好きになっちゃうってわけ。まあ、人間なんてそういうイイカゲンなところがいっぱいあるのさ
理江「おもしろーい!」
松岡「でもそれって、みんながみんなそうなるわけじゃないんでしょ」
池波「そりゃあ、個人差はあるよね」
松岡「ボクは違うな。ボクはそんなものには左右されないッスよ。愛情っていうものはですね、もうっとこう──」
 酒の勢いも手伝って熱く語りだす松岡。にこやかに耳を傾けている理江。
 そして──
 ふたたび冷徹な視線を理江に注ぐ池波。

○ 沙粧の部屋
 明かりを消した部屋でひとり梶浦のビデオを見ている沙粧。
 ブラウン管の中の梶浦は、会話の中から自分の深層心理を探ろうとする精神科医を逆にやりこめている。
 やがてビデオが終わり砂嵐。
 振り返るとそこには梶浦の姿があった。
梶浦「わかっているだろ。ボクがあのとき麻美に電話をしたのは妙子を助けたかったからだ。ボクは妙子をそのままにして部屋を出ていけと麻美に伝えた。だけど、麻美は嫉妬のあまり君を殺そうとしたんだ。助かってよかった。もうすぐ会えるよ、妙子・・・」
 梶浦がゆっくりと近づいてくる。
 梶浦がゆっくりと手をさしのべる。
 沙粧もこれに呼応するように手をさしだす。
 そしてゆっくりと目を閉じる──
 目を開くと梶浦はいない。
 幻想──?

○ 教頭の自宅前
 タクシーが停まる。
 酔った中年男(教頭)とその愛人が降りてくる。
 走り去るタクシー。
 待ち構えていた日置が近づいてくる。
日置「教頭先生、おひさしぶりです」
教頭「誰だ、君は」
日置「昔、先生に教えてもらった者です」
 と、教頭の懐に飛び込む日置。
 飛び出すナイフが教頭の腹部をえぐる。
 教頭がうめき声をあげて倒れる。
 恐怖で声も出ない愛人の米神に打撃具をあてる日置。
 教頭の上に折り重なって倒れる愛人。
 終始無表情の日置がポケットからカード一輪の薔薇をとりだし、その場に捨てて走り去る。
 そのカードの文面。
 「ふりだしにもどる」

○ 科学捜査研究所
 沙粧、池波、松岡、いつもの3人が昨夜の事件を検証している。
 池波が沙粧にカプセルを渡しながら言う。
池波「あまり薬に頼るのもよくないよ。ちゃんと量を減らすことを考えて」
沙粧「ええ、わかってるわ。松岡、捜査の状況はどうなっているの?」
松岡「はい。近くの公園で犯人らしき男が目撃されています。年は10代後半から20才。細くて華奢な体つきで、ジーンズの上下という風貌です」
池波「男のほうは死亡、女のほうは命に別状なしか。するとターゲットは男のほうだけだったのかな」
松岡「男性のほうは最近イジメを苦にした自殺騒ぎのあった高校の教頭でした」
沙粧「なにか恨まれるようなことしてたの?」
松岡「イジメの存在を認めなかったようですね。イジメっ子の親が学校の理事長で、カネで口をふさがれていたらしいです」
沙粧「ふりだし・・・・・・つまり、死んでもう一度生き返り人生をやり直せってことね」
池波「おや、この愛人が受けた傷は興味深いな。この米神の打撲痕は、目撃者の記憶を消すために計算して打ち込まれたものだな。いいかい、松岡君、人はこの部分を強打されると、脳に一時的な障害が発生し、その5分前後の記憶がなくなってしまうんだ。つまりこの女性は犯人の顔を見ているが今はそのことを全く覚えていないってことさ」
松岡「へえ。そうすると犯人は無駄な殺しはしないってことですか」
池波「おそらくね。ボクはこの事件、梶浦とは関係なしとみるね」
 この発言に沙粧が激しく反論する。
沙粧「でも、赤い薔薇は?」
池波「処刑した相手への献花だろ」
沙粧「つまり犯人は自分は正しいことをしていると信じている。これは間違った正義感の典型。しかも、特別な武器を持っている。犯人は誰かに動かされている可能性が高いんじゃないかしら」
池波「でもこれは快楽殺 人じゃない。それに典型的すぎるよ。梶浦らしくないね」
 いらだたしげに薬に手をのばす沙粧。
 その手を松岡が掴んで沙粧を制した。
松岡「沙粧さん、のみすぎです」

○ 後藤の家
 リビングでひとりテレビをみている家出少女、早瀬直美。顔に残る暴行された傷跡が痛々しい。
 その背後からそっと忍び寄る日置。
 2階から降りてくるやくざ風の男、後藤が直美の隣りに座る。
 とっさに柱の影に隠れる日置。
 おびえる直美の肩に腕を回し後藤が耳打ちする。
「痛かったか?いい子にしてればもう殴ったりしないからな」
 そこへスッと出てくる日置「後藤さん」
 立ち上がる後藤「なんだ、おまえ」
 「スイマセンね」と、ためらいなく後藤を組み敷く日置の飛び出すナイフが瞬時に後藤の命を奪う。
 じわじわと床に広がる血のり。
 そして、カードと薔薇。
 目撃者の記憶を消すべく打撃具を取り出し直美に詰め寄る日置。
 まさに殺 人マシーン。無駄な動きが微塵もない。
 おびえる直美。
 日置の鼓動が突然高鳴る。
 ドクンドクンドクンドクン・・・
 日置の目に初めて戸惑いの色が浮かぶ。
 結局打撃具を使わず、その場を立ち去ろうとする日置。
 その背中に直美の声が飛ぶ。
直美「待って!あたしも連れてって」
 ドクンドクンドクンドクン・・・
 日置は無意識のうちに直美の腕を掴み、逃げだしていた。

○ 深夜の路地裏
 ひとけのない道をひた走る日置と直美。
 やがて直美の息が切れ、立ちどまる。
 そんな直美にくしゃくしゃの一万円札を渡す日置。
日置「帰れよ。もうついてくんな」
 と、直美を置いて闇夜に消える日置。
 そして、呆然と取り残される直美がひとり行き場を失う──

○ 捜査一課
 女の斡旋、薬の売買など悪名高い後藤殺しがニュースで報じられている。
 それを見た高坂が吐き捨てるように言った。
高坂「犯人は英雄気取りだな」
 そこへ矢田がやってきて高坂にテープをみせる。
矢田「警部、タレコミです」
高坂「なにッ!」
 沙粧、松岡、高坂、矢田、その他捜査一課の面々に池波を加えてタレコミを録音したテープを聴く。
テープの声「次に犯人が狙うのは常本拓也という不動産会社の社長、40歳だ。彼によって一家心中に追い込まれた家族がいる。彼に捨てられて自殺した女がいる。しかしこの男は罪の意識を感じていない。犯人は制裁活動をしている。それが社会のために自分が役立つ方法だと思っている。だから加工した武器を使って制裁を続けている──」
池波「声が加工されてますね」
高坂「問題は内容だな。信じるべきかどうか・・・」
池波「声に落ち着きがあります。ウソをついているようには思えない」
沙粧「マークする価値はあるんじゃないですか」
高坂「(沙粧の言い草にカチンときて)理由はなんだ!理由は!」
沙粧「犯人は細身の男です。大の男を倒すにはそれなりの武器が必要。格闘した形跡がないことから普通の武器ではないことが窺える」
高坂「それがどうした!」
沙粧「警察はマスコミに対して凶器は『鋭利な刃物』としか公表していないのに、この声の主はちゃんと『加工した武器』と言ってます。これは関係者にしか知りえない情報です」
 グウの音も出ない高坂。納得する一同。

○ 常本のビルの前
 リムジンに乗り込もうとする常本の前に沙粧と松岡が現れる。
沙粧「常本さん、警察です。返事をいただけないので直接うかがいました」
 常本がハエでも追い払うかのように沙粧に手を振る。
常本「イタズラ電話一本ごときで、どうして私が煩わされなきゃならんのですか」
 かまわず沙粧たちが強引にリムジンに乗り込んでくる。
常本「おいおい・・・」
沙粧「車、だしてもらって構いませんよ」
常本「(ドライバーに)しょうがないな、だせ」

○ リムジンの中
沙粧「常本さん、誰に狙われているか思いあたるふしはありませんか」
常本「ないね」
沙粧「ありすぎて思いあたらないのでは?」
松岡「沙粧さん、失礼ですよ」
 常本が呆れたように肩をすくめると、松岡に向かって同情たっぷりに言う。
常本「あんた、よくこんな女と一緒にやってられるな」
松岡「(ムッとして)余計なお世話です」

○ ホテルの一室
 常本が住まい代わりに使ってるホテルの隣室に待機する沙粧と松岡。
松岡「なにか飲みますか?」
沙粧「ワイン」
松岡「駄目です。勤務中ですから
沙粧「あなたって、いつもバカバカしいくらいまっすぐね。池波さんが私といい組み合わせだって言ったのが少し分かる気がする」
松岡「それって誉めてるんですか?」
沙粧「私と相性がいいことって誉められたことじゃないわよ」
松岡「なるほど、確かに」
 沈黙──
沙粧「で、結婚のはなし、進んでるの?」
松岡「はい、もうすぐ結納です」
沙粧「おめでとう。どうりで幸せそうな顔してる」
松岡「デヘッ、そうですか」
沙粧「勤務中なのに・・・
松岡「(ムカッ!)」
沙粧「(あくまで真顔で)じょうだんよ」
 再び沈黙──
松岡「あの、沙粧さん、差し出がましいようですけど、梶浦のことはあまりこだわらないほうがいいんじゃないですか」
沙粧「松岡・・・」
松岡「約束してください。あまり無茶をしないって」
沙粧「それって私を気遣ってるの?」
松岡「(動揺して)いえ、捜査のためです!」
沙粧「そうよね」
松岡「そうです!」

○ ホテルのラウンジ
 常本が愛人とのんびり食事をしている。緊張感まるでなし。
 そんな彼らのテーブルを沙粧、松岡、高坂、矢田たちが客を装いつつ張りこんでいる。
常本「(愛人に向かって)このホテルに刑事がいるんだ」
愛人「どうして?」
常本「ボクの護衛さ。ボクも今までいろいろやってきたからね。命まで狙われるようになったんだ」
愛人「ウソっぽいなあ」
 そのときだ。
 パーン!パーン!
 銃声、そして黄色い声。
 刑事たちが音のしたほうに一斉に反応する。
常本「ひ、ひーっ!!」
 びびった常本が松岡の足にしがみつく。
 常本をふりほどき音源に走る松岡。
 やがて7人の刑事が銃をもつ男を取り囲み、銃を構える。
男「ちょっと、あんたらなんですか!」
高坂「へ・・・?」
 男の持っている銃は誰の目にも明らかなオモチャだった。
 銃から発砲されたのは弾丸ではなく落下傘。
 その落下傘はポカンと口を開けている新郎新婦の頭に乗っかっている。
 つまり、本物の拳銃ではなく、拳銃型のクラッカーだったのだ。
高坂「くそ、人違いだ」
常本「ああ、びっくりした。お、おどかすなよぉ」
 ホッと緊張を緩める刑事たち。
 そこに油断ができた。死角ができたのだ。
 カーテン越しに常本の背後に忍び寄る影。
 それはホテルのボーイに成りすました日置だった。
 日置の襲来にいち早く気づいた沙粧が鋭く叫ぶ。
沙粧「逃げて!」
 常本がハッと振り向いたときには日置はもうすぐ傍まで来ていた。
 常本が愛人を盾にして日置のナイフから逃れる。
 阿鼻叫喚のラウンジ。
 きびすを返して戻ってくる刑事たち。
 その先頭を行く松岡が日置にタックルし、そのまま組み伏せる。
 追いついた他の刑事たちが日置に銃をつきつける。
 高坂が興奮気味に日置に手錠をかけた。
高坂「ようし、逮捕だな。逮捕したな!」
 谷口光二、北村麻美をみすみす死なせてしまったが、今度こそは生きて身柄を拘束した。
──この男から梶浦に近づける。
 そんな安堵の思いが一同の胸に去来していた。


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